
「一般的な建築会社は、審査が通らなかった場合の仕様変更で施工が遅れるのを嫌うため、寸法に余裕をもたせて設計している」。スピリタスの仲摩恵佑社長は話す。「この『余裕』という名のムダを極限まで削り、部屋数を増やしている。数mm単位の勝負をしている」。アパート経営の利回りが一般的に5%程度とされる中で「約7%を実現できている」という。
もちろん、オーナー目線で非常に魅力的なアパートでも、入居者が集まらなければ意味がない。そこでスピリタスは必要な設備を取捨選択し、狭くても快適さを損なわない工夫をこらす。
ロフトを、ただの物置にしない
一例が天井高だ。スピリタスが手がけるような規模のアパートの場合、床から天井までの距離は「柱の太さの30倍まで」などと定められている。そこで同社は一般的な木造アパートより15%太い12cm四方の柱を採用。360cmの天井高を確保した。男性でもひざ立ちできるだけの高さのあるロフトが設けられ、狭い床面積を補っている。冒頭の桜井さんも、ロフトをただの物置としてムダにせず「寝室かつギターアンプ置き場」として有効活用していた。
天井まで距離があるため、窓を高い位置に設けられるメリットもある。太陽光をより多く取り入れられるので、部屋全体が明るくなる。壁紙からフローリング、ドアに至るまですべて白色で統一しているのも明るさを重視しているから。光が部屋内で反射し、室内がより広く感じられる効果がある。
一方で湯船のある風呂は設けず、立ったまま体を洗うシャワー室を採用する。「若年層の単身者が湯船に入ることは少ない」(同社)からだ。また独立した洗面台は設けず、歯みがきや洗顔はキッチンで済ませてもらう。コンビニエンスストアなどから持ち帰って食べる「中食」市場が成長し、キッチンでほとんど料理しなくても生活が成立する時代だからこそ可能な間取りといえる。これらの工夫の結果、スピリタスの物件の入居率は99%を超えるという。
限られた土地にできるだけ多くの部屋を設けるノウハウが、当初からあったわけではない。「最初は独学だった。今思えば、創業したばかりの貪欲さと熱意だけで突っ走っていた」と仲摩社長。外部の設計事務所などに教えを請う中で、徐々に開発力が蓄積できた。仲摩社長は「初期に手がけた物件の図面をみると『今ならあと2部屋は増やせるな』と思うこともある」と笑う。
最近ではアパート1棟をまるごと設計できることに魅力を感じ、大手のゼネコンや不動産会社を辞めてスピリタスに入社する社員も増えているという。
人口減少が今後本格化する日本だが、利便性の高い都市部での生活を望む若い世代は多い。単身世帯の増加もアパート経営には追い風だ。1980年代以降に広がったワンルームマンションよりも狭い「極小アパート」を“発明”することで、スピリタスは不動産業界に新風をもたらしている。
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