床面積9m²ながら快適に過ごせる賃貸アパートを設計・供給して急成長している。オーナーと入居者の双方に「極小」の利点を訴え、竣工数は設立5年で70を超えた。

(日経ビジネス2018年1月15日号より転載)

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「狭いが、不自由はない」
9m²の部屋で生活する桜井さんは「工夫すれば快適」と話す。都心に近い駅から徒歩5分で、新築6万円台という家賃も魅力だ
(写真=吉成 大輔)

 玄関を入って数歩も進めば、すぐ部屋の向こう端にたどりつく。まるで立方体の箱の中に足を踏み入れたかのような、その部屋の広さはわずか9m²。それでもキッチン、トイレ、シャワーがあり、冷蔵庫も、洗濯機も無理なく置くことができる。

 ここは東京・新宿駅から電車で5分ほどの駅から徒歩5分のアパートの一室。部屋の主、桜井央さん(27)は「確かに狭い。でも工夫さえすれば不自由なく、快適に生活できる」と笑顔で話す。

 極めて狭いが、住みやすさも決して犠牲にしない。そんな極小アパート「QUQURI(ククリ)」を東京23区で供給するのがスピリタス(東京・港)だ。

「もう1部屋」に全身全霊

DATA
SPILYTUS(スピリタス)
2012年設立
本社 東京都港区虎ノ門4-3-13 ヒューリック神谷町ビル1F
資本金 6500万円
社長 仲摩恵佑
売上高 31億円
(2017年12月期見込み)
従業員数 31名
事業内容 極小アパートの設計や販売、管理支援
右肩上がりの成長が続く
●スピリタスの売上高推移
<span class="title-b">右肩上がりの成長が続く</span><br />●スピリタスの売上高推移
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 自社で土地を仕入れ、アパート経営で資産形成したい富裕層をオーナーとして募集。建物を設計し、竣工後も管理業務を支援する。設立5年ながら竣工実績はすでに70棟を超え、2017年12月期の売上高は31億円を見込む。

 スピリタスがこれだけのペースで実績を重ねているのは、オーナーにとって極小アパートの魅力が大きいからだ。オーナーがアパート経営で多くのリターンを得ようとするとき、選択肢は2つ。一つは家賃の引き上げ。だが、それでは借り手を見つけにくい。もう一つが、1棟にできるだけ多くの部屋を設け、合計の家賃収入を増やすことだ。

 そのためには設計上のあらゆるムダを排除し、追加の「もう1部屋」をつくる工夫が求められる。スピリタスはこの点に、全身全霊を傾ける。

 例えば、居室の外側の共用廊下は幅が90cm程度と狭い。玄関ドアを開くとほぼふさがれ、通行できなくなる。ただ一人暮らしが多く住人の活動時間もバラバラの都心アパートでは、住人同士がすれ違うことは滅多にない。共用廊下は家賃収入を生まない。そこに使う面積があるのなら、部屋を1つ増やしたほうがいいという考え方だ。

 共用廊下を狭くできるのは、1フロア当たりの床面積の合計を100m²以下に抑えているから。建築基準法や自治体の安全条例は、アパート住戸の1フロア当たり床面積が100m²を超える場合、1.2m以上の廊下幅を確保するよう求めている。そこでどんな土地でも、スピリタスが設計するアパートは基本的に1フロア当たり100m²以下。仕入れた土地が広ければ、1区画をあえて分割し、別々のアパートを2棟建てるほどの徹底ぶりだ。このようにスピリタスは法規や条例を守りつつ、可能な限り多くの部屋を1棟に詰め込む。

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