147人のプロ集団

 新規事業を進めるのに必要なのはその道のプロ。人材に惜しみなく投資するのもヒューリックの特徴だ。

 弁護士の田中美衣氏は昨年10月、所属する弁護士事務所を辞め、ヒューリックに入社した。決め手は面接での「残業できないことを心配する必要はない」との言葉だった。

 法務・コンプライアンス部で働く田中氏は毎朝2歳の娘と出勤。本社内の保育所に娘を預けた上でデスクに向かい、午後6時には仕事を終える。企業法務に精通した経験を生かし、契約書のリーガルチェックなどが主な業務だ。田中氏は「福利厚生が充実しているだけでなく、成長のために投資もしてくれる。会社の援助で宅建資格を取得しようと考えている」とにこやかに話す。

トップクラスの給与水準
●手厚い福利厚生・人材育成の内容
トップクラスの給与水準<br />●手厚い福利厚生・人材育成の内容
<b>法務・コンプライアンス部 田中美衣・部長代理</b>(弁護士事務所で働いていたが、昨年10月に転職)(写真=都築 雅人)
法務・コンプライアンス部 田中美衣・部長代理(弁護士事務所で働いていたが、昨年10月に転職)(写真=都築 雅人)

 単体での社員数はわずか147人(2016年9月時点)。みずほ銀行からの転籍者を含め、大半が中途採用組だ。一級建築士や会計士などその道のプロ人材が多い。「新しい事業を成功させるには報酬を引き上げ、プロを集めないといけない」(西浦会長)との理念の下、平均年収は1295万円(2015年度)と全国トップクラスの水準を維持している。

 ただ、不動産市場の先行きは不透明だ。東京五輪を前に、オフィス需要はピークを迎える可能性がある。新規事業として力を入れる観光も乱高下するインバウンドの影響を受けやすい。自己資本比率は高いものの、積極投資の影響で2016年9月期の有利子負債は6848億円と、ここ数年で2倍に膨らんでいるのも懸念材料だ。

 高成長をけん引してきた銀行の資産が底を突きつつある中、新しい成長モデルを収益の柱に育てることができるか。風雲児としての真価が問われるのはこれからだ。

(林 英樹)

INTERVIEW
西浦三郎会長に聞く
トップ3じゃないと生き残れない

 2006年、みずほ銀行の副頭取からヒューリック社長に転じた。使命は巨額の負債を抱える会社の再生。そこで成長と安全性、生産性を重視した戦略を立てた。今後の人口動態を考えたら分譲マンションを手掛けるリスクは大きい。海外情勢は読みにくいから海外事業はやめようと、「やらない」ことを次々と決めた。

 過去に海外事業を1度だけ手掛けたことがある。ロンドンの物件で、取得後に為替益が発生し、たった3年間で50億円以上売却益を得られた。大きくもうかった分、これが逆だったらと考えて、恐ろしくなった。三井不動産や三菱地所のような資本力のある財閥系不動産会社と違い、我々は中堅クラス。引き受けられるリスクに限度があるからだ。

(写真=村田 和聡)
(写真=村田 和聡)

 何十年と建物が残り続ける不動産業は先の先まで読む必要がある。昨年3月、吉留学副社長が社長に就いた。それ以降は会長として、長期戦略の策定にこれまで以上の時間を割いている。

 例えば、日本の労働人口は今後15年間で1000万人近く減ると言われている。現在の主力事業であるオフィスビルも安泰ではないだろう。2006年ごろはオフィスと銀行支店からの賃料収入が全体の85%ぐらい占めていたが、足元では65%程度。経営の安定を考えれば、これを半分ぐらいに落としたいと思っている。そのためには観光、高齢者といった新しい事業分野がもっと育たなければならない。

 あと注目しているのが農業。現在、山梨県北杜市で植物工場の実証実験を進めている。オフィスビルの地方展開は全く考えていないが、観光と農業はやりようがあるのではないか。

 コンビニエンスストアや銀行が良い例だが、今後は業界のトップ3に入らないと生き残れなくなる。少なくとも3位と戦える立場にならないとダメだ。しかし財閥系と同じ事業に手を出したら資本力の勝負になり、負けてしまう。だから財閥系がやらない事業を手掛けながら、ある程度の市場規模にまで育てることが重要になる。(談)

(日経ビジネス2017年1月23日号より転載)