建て替えで賃料2倍に

 存亡の危機に立たされた同社を変えたのは、2006年にみずほ銀行副頭取から社長に就任した西浦会長だった。「第2の創業」を掲げ、東証1部への上場を目指すと宣言。だが手元には資金がない。そこで目を付けたのが、銀行の支店を中心とした所有物件の建て替えだ。

 建物を高層化すれば、容積が増える。増床部分をオフィスやテナントとして貸し出せば、手元資金をそれほど使わずに賃料収入を増やすことができるためだ。

●銀座・有楽町エリア
●銀座・有楽町エリア
「ヒューリック銀座ワールドタウンビル」「ヒューリック銀座数寄屋橋ビル」「ヒューリック有楽町二丁目開発計画(完成予想イラスト)」(左から)

 その代表例が、2011年に建て替えた「ヒューリック銀座数寄屋橋ビル」。元はみずほ銀行の関連会社が入居していた地味なビルだったが、「柳」を表現した斬新な外観を取り入れ、地下4階地上11階建ての瀟洒なビルに刷新。米アパレルブランド「GAP」の日本での旗艦店の入居に成功し、賃料収入は改修前の2倍以上に跳ね上がった。

銀行関連の賃料は3割以下に
●2016年6月時点の賃貸収入の内訳
銀行関連の賃料は3割以下に<br />●2016年6月時点の賃貸収入の内訳

 同様の手法で10年間に約50件の建て替え計画を実行。銀座・有楽町エリアでは13件の物件を所有し、不動産会社の中でも有数の延べ床面積を押さえることになった。建て替えを進める中で銀行からの賃料収入の比率は年々減少。足元では賃料収入全体の23%にまで低下している。

 「脱銀行」に成功したことでヒューリックは新たな課題に直面することになる。一等地にある銀行支店の建て替え需要がほぼ一巡したことで、高成長を維持するのに新規開発に力を入れざるを得ない状況になった。オフィス・商業ビルの新規案件だけではこれまでのような好立地の物件を集めることは難しい。そこで、2014年度に打ち出したのが、観光、高齢者などの新規事業だ。

 外国人観光客に人気の東京・浅草。雷門の前にあるホテル「ザ・ゲートホテル雷門by HULIC」は年間を通じ、9割近い客室稼働率を維持している。

●浅草エリア
●浅草エリア
「ウインズ浅草ビル」(上)「ヒューリック浅草橋江戸通ビル」(左下)「ザ・ゲートホテル 雷門 by HULIC」(右下、写真=村田 和聡)

 「おなかが減っているのだけど何か食べ物はないか」。夜中のホテルフロントでチェックインした宿泊客がこう尋ねると、スタッフが「2分でご用意できます」とにこやかに応対する。

 ゲートホテルではフロントや厨房、フロア担当のスタッフ全員がインカムを通じて常にやり取りし、即座に宿泊客の要望に応えられる態勢を取っている。客室数136室の中規模ホテルだからこその細やかなサービスだ。総支配人の安間昭彦氏は「うちのスタッフはどの持ち場も担当できる。大型ホテルでは実現できない唯一のサービスに徹底的にこだわった」と誇らしげに話す。

 「13階のロビーフロアからは東京スカイツリーと浅草の町並みを一望できる」「朝食の卵料理が旅行サイトで東京都1位に選ばれた」。そんな情報がSNS(交流サイト)で広がり、2015年は全体の30%台だった海外の旅行客は半分を占めるほどに急増した。

 ゲートホテル雷門も元は銀行支店だった。だがオフィスビルではなく、ホテルに建て替え、しかもヒューリックが自ら運営にも乗り出している。

 観光ビジネス開発部長の高橋則孝・常務執行役員はその狙いについて「ホテルはオフィスと異なり、稼働率によって賃料が変動する。キャッシュフローが安定しにくい資産だからこそしっかりと業務管理にまで関わる必要がある。ゲートホテルでそのノウハウを得ようと考えている」と説明する。

 ゲートホテルは2018年に銀座でも新たに開業するほか、札幌市や福岡市の銀行支店が入るビルでも建て替えでホテルの入居を検討している。

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