財閥系と競合しない戦略
●売上高と経常利益の推移

ヒューリックの高成長を支えているのが、収益性の高い優良物件だけを選び取る目利き力。目利き力とは曖昧な概念だが、簡単に言えば、「やらない」事業を明確にしているのだ。
例えば、「六本木ヒルズ」のような1フロア500坪以上の「Sクラス」と呼ばれる超大型案件には絶対に手を出さない。同様にリスクが大きい海外案件や分譲マンション開発も原則としてやらない。街づくりなどの大規模開発案件にも消極的。いずれも資本力がある財閥系が得意とする分野だが、「5年先が読みにくい事業領域で資本力のない会社がリスクを取るのは難しい」(西浦会長)ためだ。
代わりにヒューリックが力を入れるのが、Sクラスの1つ下の「Aクラス」(1フロア300~500坪)と呼ばれるオフィス・商業ビル。ただ、Aクラスでも「やらない」ことははっきりしている。最寄り駅から徒歩5分以上離れた物件は原則として買い付けない。東京都心が中心で、地方都市には手を広げない。
好立地のAクラスビルには中堅・中小企業の根強い需要がある。しかも競合する財閥系はそれほど取得に熱心ではない。結果として、ヒューリックが保有するオフィスの4分の3以上は東京23区内に集中し、空室率は2016年9月時点で0.6%。人気が高い都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の市場平均と比べても3ポイント以上低い水準を維持している。
●ヒューリックが手を出さない事業領域


●ヒューリック所有物件と市場平均のオフィス空室率

このような収益性の高い物件をそろえられた背景には、ヒューリックの“生い立ち”が大きく影響している。
ヒューリックは1957年、富士銀行(現みずほ銀行)の支店が入るビルの供給や管理を担う「日本橋興業」として設立。銀行の支店を店子として抱えていたため、都心の駅近という好立地の物件を多く押さえることができたのだ。
半面、「負の遺産」も引き受けることになった。2000年代前半、銀行が不良債権処理を進める中で、日本橋興業はみずほから含み損を抱えた物件を次々と取得。結果的に、みずほフィナンシャルグループは他のメガバンクに先駆けて不良債権残高の圧縮に成功したが、その代償として日本橋興業には莫大な借入金が残り、財務を圧迫することになった。
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