
財務面でもキャッシュフローが健全化する。仕入れから商品化、現金化までの一連の期間を指すキャッシュ・コンバージョン・サイクル(現金循環化日数)が短くなり、経営の安全性が高まる。
売り上げが増える分、運転資金も必要になる。多額の借り入れを基に急成長する中小企業ほど資金ショートを起こしやすい。スタイルブレッドも7000万円を借り入れ、2006年からの10年間で売上高を12倍に伸ばした。在庫を軽くする仕組みは不可欠だったといえる。

2015年7月、スタイルブレッドのホームページに「重要なお知らせ」が掲載された。業務用の注文はウェブからの受け付けを中止し、電話、FAX、メールに限るという。時代に逆行するような決断にみえる。
それまで2年間、数百万円をかけてウェブ注文システムを整えてきた。「手の空いた時間にポチッとしたら翌日に届く、事務用品のネット通販のような仕組み」(田中社長)を目指してのことだ。
自動受付窓口としての役割も期待していた。スタイルブレッドの営業担当者は群馬本社と大阪支社を合わせて約10人。直接、取引先を訪れ、商談を通じて見積もりを出す。回り切れない地域の需要を取り込みたいという思いもあった。
料理人はネットを使わない
ここに思わぬ誤算があった。料理人は仕事でインターネットを使わない。電話かFAXで注文をする。義理と人情の付き合いを好む。特別扱いにも弱い。機械的なシステムを通じて、他店と同じ仕入れ値で買わされているのが分かるサービスなど利用しない。パソコンの前に座って仕事をする、バックオフィス系の人々と同じようにはいかなかった。
8月からは顔の見える営業へと切り替えた。僻地にあっても、規模の小さい店でも、必ず営業担当者が訪れる。自己紹介をし、商品の説明をし、パン作りへの思いを語り、問い合わせ先を明示する。パンの定価を伝えた上で、商談を踏まえてその店だけの見積もりを出す。年1回しか訪問できなくてもリピート率は上がった。
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