天然酵母パンの廃棄率は8%

 「天然酵母」と「量産」は両立しにくい組み合わせの1つ。天然酵母を使ったパンは廃棄率が高くなりやすい。

 量産品でよく使われるイーストは人工的に培養した1種類の菌。天然酵母は穀物や果物に水を加えて置き、材料に付着する細菌類や空気中の微生物などを増やしたもの。複数の菌が生じ、組成も原料や土地によって異なる。活性化する温度帯も違う。

 うま味や味の深みが出る一方、菌の活動の幅を読みにくく、焼き上げた形がばらつきやすい。穴が開いたり、変形し、商品にできないものもある。一般にイーストを使ったパンの廃棄率は0.2~0.4%にとどまるが、天然酵母を使うスタイルブレッドのそれは8%に上る。生産量が増えれば当然、廃棄量も増える。

大手には「小さすぎる」市場

 大手製パンメーカーの資金力や販売網を持ってすれば、すべての要件を満たしたパンなど容易に作れそうに思える。しかし、大手にとってこの市場は、参入するには利が少ない。需要が高級レストランやホテルなどに限られるからだ。

 矢野経済研究所によると、1.4兆円前後で推移している国内パン市場(メーカー出荷金額ベース)のうち、レストランやホテルといった外食、事業所給食などへの出荷分は2013年度で計9.2%、1293億円でしかない。高客単価の店に限ればごくわずかだろう。

外食などの市場は1割にも満たない
外食などの市場は1割にも満たない
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 眼前にはすでに、32.8%のシェアを持つGMS(総合スーパー)やSM(食品スーパー)などの量販店、26.4%のCVS(コンビニエンスストア)、26.2%のベーカリーという消費者向けの市場が広がる。最近ではドラッグストアやホームセンターでも食品を扱い、無視できない規模になった。製パンメーカーは自社商品の売り場を確保しようと必死だ。イーストフードや乳化剤などの添加物を使わず、雑穀を加えるなど、特徴ある商品の開発にしのぎを削る。

 PB(プライベートブランド)商品の受注競争も激化している。特にCVSでは、パン売り場におけるPB商品の割合は増加の一途をたどっている。セブンイレブン、ファミリーマート、ローソンの大手3社の平均では8割以上にのぼる。自社のNB(ナショナルブランド)商品が追われた分を取り戻すためにも優先したい。

 マス向けの大手製パン業には「小さすぎ」、ニッチとして狙うには「難しすぎる」市場。スタイルブレッドはなぜ、この絶妙なセグメントに注力できたのか。きっかけは、4代目となる田中知社長の挫折だった。

田中知社長はヨーロッパの三ツ星レストランを視察して以来、ハード系パンに力を入れている
田中知社長はヨーロッパの三ツ星レストランを視察して以来、ハード系パンに力を入れている

 スタイルブレッドの前身は1930年に創業した田中製パン所だ。桐生市内に店舗を構え、サンドイッチやカレーパン、チョココロネなど親しみやすい調理パンを中心に製造。地元客を対象に販売し、7坪の売り場で年商1億円を稼ぐ人気店だった。

 OEM(相手先ブランドによる生産)も請け負っていた。市内の老舗フランス料理店からレシピを受け取り、食事に添えるフランスパンを焼く。

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