原価3倍でも売れる理由

 原料には、群馬県桐生市でしか生まれない天然酵母「桐生酵母」やフランスの伝統塩である「ゲランドの塩」を使う。

 製造は「低温長時間熟成製法」で行う。天然酵母が活動しやすい-2~30℃で16~18時間かけて発酵させ、小麦本来の甘さを引き出す。製パンメーカーやベーカリーで量産するフランスパンは24~30℃で1~3時間しか発酵させないものが多い。甘さを砂糖や甘味料などの添加物で補うのに対し、“自然の安心感”をアピールしやすい。

 商品数は「プティパン」をはじめクロワッサンやベーグル、マフィンなど55品目、サイズの大小を加えると63種類ものバリエーションでそろえる。料理に合わせて使い分けられ、ホテルでは連泊するお客も飽きさせることがない。ビュッフェ形式の食卓も品数が多いほど華やかになる。

 常温で解凍し、オーブンで焼き直して提供するため、お客の目には焼き立てのように映る。工場では完全に焼き上げてから冷凍しているが、焼き色は薄め。店側の好きな加減にできる。

 食数に応じて1個ずつ解凍でき、客数が増減してもロスが出にくい。長いフランスパンは切り分けなくては使えない。1切れだけ欲しくても、冷凍品であれば1本丸ごと解凍しなければならず、無駄が出やすい。常温品なら残れば店で冷凍するが、味が落ちる。

パン作りはコストの塊

 これらの条件を備えたパンを飲食店が作るには、高い設備投資と人件費がかかる。発酵など時間を要する工程があり、成形には手作業も必要になるなど、手間も多い。 個人店はもちろん、館内ベーカリーで製造と販売を手掛けるホテルでも、レストラン用のパンは憂鬱な存在だ。「焼き立て」と呼べるのはせいぜい数時間。余っても、日付が変われば売り物にならない。外注できればコストもロスも軽減される。

 取引先の1つである大手リゾートホテルのシェフは、スタイルブレッドのパンをこう評する。

 「フランス料理に合うハード系のパンは都内ならまだしも、(リゾートホテルの多い)地方や僻地では手に入りにくい。決して安くはないが、品質や使い勝手など様々なバランスの良さを考えると十分に見合うコストだ」

 これまでいずれかの条件を満たす業務用パンはあっても、すべてを同時に実現した企業はなかったといえる。6つの要素はバランスを保つのが難しい。

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