厨房用のギャレーや化粧室といった、航空機の内装品を手掛ける。高い品質を武器にトップクラスの世界シェアを握り、航空機業界で知らぬ者はいない。成長に向け新たにシート事業にも参入。内装品の総合メーカーへの飛躍を目指す。

シート市場開拓の拠点が稼働
●宮崎ジャムコの生産現場
シートの型枠部分を生産。様々な仕様書に従い、部品などを手際よく取り付ける。1人の担当者がその場で1つのシートを担当する「セル生産方式」(写真=石井 貞生)

 緑豊かな山間部の一角に開けた宮崎市内の工業団地。航空機向け内装品を手掛けるジャムコの生産子会社、宮崎ジャムコの最新工場がある。

 生産現場を歩くと意外なほど静かだ。それもそのはず。重機や切断・溶接などの加工機は見当たらず、基本的に1人の担当者がそれぞれの持ち場で1つのシートを受け持つ「セル生産方式」。部品をねじ留めしたり、接着したり、細やかな手作業による工程が中心だ。

 宮崎ジャムコの他の内装品工場で20年近い経験を持ち、現場責任者を務める男性は「寸法通りにきっちり組み合わせるのは我々のお家芸」と語る。

 この工場が稼働を始めたのは2015年末。ジャムコが航空機用シート市場に本格参入するにあたり、戦略拠点として新たに立ち上げた。

足元では円高が響くが、業績は拡大傾向
●ジャムコの連結業績
利益の9割超を内装品で稼ぐ
●主なセグメント(2016年3月期の経常利益)
コスト競争力強みに自由化を乗り切る
●国内の大手電力会社との火力発電コスト比較(2016年3月期)
1955年 伊藤忠航空整備(ジャムコの前身)設立
1970 全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)が資本参加。新日本航空整備に社名変更ANAからギャレー受注。内装品に進出
1979 米ボーイングから化粧室受注
1988 ジャムコに社名変更
2014 シート事業に本格参入
2015 宮崎県の生産子会社でシート工場が稼働

 ジャムコが扱うのは「プレミアムシート」。航空機1機当たり15~50席程度のファーストクラスやビジネスクラスで使われる。シートの品質や座り心地はもちろん、スペースの有効活用による窮屈さの解消など、各航空会社が注力する傾向にある分野だ。

 プレミアムシートの場合、乗客が機内で快適に過ごせるよう、背もたれをほぼ水平まで倒せる「フルフラット」や足を楽にする「フットレスト」の駆動部など、エコノミークラスに比べて複雑な構造を持ち、作業工程も多い。

向けにジャムコが納入したファーストクラスのシート
シンガポール航空の「B777」

 上の写真のように、プレミアムシートの場合、椅子というよりも、モニターやテーブルなどの周辺設備を内包した「個室」に近い。仕様も航空会社ごとに異なりがちで、柔軟に作り分けるにはセル生産方式が向いている。

 手作業が多い分、少しでも生産性を高めようと試行錯誤を重ねている。現場からの提案で今年3月に導入したのが電動昇降リフト。作業者の腰の位置までシートを持ち上げることで、かがまなくても作業しやすくした。

 ほぼ同時期に無人搬送車も試験導入し、それまで手押しの台車を使っていたシートの運搬作業を効率化した。いずれも、ジャムコの工場としては初の取り組みとなる。

 現状は宮崎でシートの型枠部分を仕上げ、米国・シアトルの工場で最終製品に組み立てている。近いうちに宮崎で一貫生産可能な体制を整える方針だ。

厨房設備、化粧室で高シェア

 ジャムコの名前は一般的にはそれほど知られていない。それでも、多くの人は同社の製品を利用したことがあるはずだ。

 航空機向けの化粧室で、ジャムコは50%の世界シェアを持つ。また、機内食や飲み物を温め直す「ギャレー」と呼ばれる厨房設備では世界シェア30%。それぞれ、機内に複数の通路を持つ「ワイドボディー」タイプの大型航空機における数字だ。

 ワイド型は国際線や長距離線を中心に、米ボーイング、欧エアバスの受注残合計の約2割を占める。機内の前方・中央・後方にギャレーや化粧室を7~10個設置する。中小型機よりも内装品の搭載数が多く、高い仕様の製品が求められやすい市場でジャムコは高いシェアを持つ。

 ギャレーは基本的に航空会社がどの製品を導入するか決める。その仕様はどのような機内食を提供するかといった顧客サービスと密接に関わるからだ。ジャムコは世界の航空会社約100社に納入している。

機内の前方・中央・後方に厨房設備「ギャレー」(左)、化粧室(右上)が設置される注:航空機は通路が2列の「ワイドボディー」と、1列の「ナローボディー」に分かれる。座席数や飛行距離などで性能が異なる
今年4月、米ボーイングが世界の優秀サプライヤー12社を発表。日本からはジャムコとナブテスコが選出
著名デザイナー、和田智氏と共同開発した近未来の航空機シート「Space X」。調度品としての魅力や付加価値を高める

 一方、化粧室は航空機メーカーに直接納める。特に「B777」「B787」などボーイングの大型機では、全てジャムコが供給し、強固な関係を構築している。エアバスからも化粧室を初受注、2017年に「A350」へ納入する予定だ。

 昨今、中長期的に成長が見込める航空機産業への参入をもくろむ日本企業は増えている。だが、米欧の2大完成機メーカーを頂点に、1次、2次と複数層のサプライヤーによる既存秩序が厳然と存在するのもまた事実。新規参入を考える際、ジャムコの歩みを振り返ることは有益だろう。

 1955年、伊藤忠航空整備として設立。事業の柱は整備や修理だった。今も伊藤忠商事が3割超を出資する大株主だ。

 転機は70年代に訪れた。71年、初めて受注を獲得した前年の全日本空輸(ANA)向けに続き、日本航空(JAL)からボーイングの機体向けギャレーを受注。だが一筋縄ではいかなかった。

 それまで米国の企業から調達していたJALの担当部門では当初、ほとんど経験のないジャムコの起用に反対する声が圧倒的だった。何とか受注にこぎ着けたが、納期は通常の1年超に対し、半年程度しかなかった。

複合材での軽量化が強み

 ここで失敗すれば後がない。ジャムコは総力戦の突貫工事で納期を順守した。据え付け作業に立ち会ったボーイングの技術陣は、納期の短さと製品の完成度を見比べて「東洋の魔術師」と評価。この案件を通じ、ボーイング側に「日本に使えそうな内装品メーカーがある」との認識が広がった。

 ボーイングから化粧室を受注したのが79年。当時は、機内で化粧室を組み立てる方式が主流だった。それに対し、ジャムコはあらかじめ工場で化粧室を完成させた上で、機内に据え付けるユニット工法を確立。工期短縮などの成果を上げた。

 航空機産業は厳格な安全基準や各種の認証制度などがあるため、容易には参入できない。取引や投資回収も長期にわたり、すぐ利益が見込めるわけでもない。とっつきにくさの半面、一度信頼を得られれば仕事をしやすい。

 「内装品の納期遅れや品質問題は機体自体の納入遅れへ波及する。そうなると困るから、結果的にボーイングがジャムコを航空会社などに売り込んでくれた」。内装品や技術部門を統括する粕谷寿久取締役は説明する。

 今年4月、ジャムコ経営陣はボーイングの拠点があるシアトルに飛んだ。ボーイングが世界のサプライヤーから特に優れた12社を選出、その1社として華やかな式典に臨むためだ。ボーイングのデニス・ミュイレンバーグCEO(最高経営責任者)は「ボーイングの成功にトップクラスのサプライヤーは欠かせない」と盟友を迎えた。

 内装品の重量は、航空機の燃費に直結する。そのため、いかに軽量化できるかが腕の見せどころとなる。安全性や耐久性を保ちつつ、同じ仕様でどれだけ軽くできるか。ジャムコの強みは、ガラス繊維などで製作する複合材「ハニカムパネル」。金属の使用を減らし、こうした高機能素材に置き換えていく戦略を進めている。

 その戦略が抜群の効果を発揮したのが、中東、エミレーツ航空向けのギャレーの受注だった。エミレーツ航空は、長らく競合他社の製品を採用しており、難攻不落だった。

 「試しに同じ仕様で作ってみてくれ」。エミレーツ航空から打診を受け、ギャレーを製造してみると、他社製品よりも約10%軽くなることが判明。結果、2011年から一転してジャムコの得意客となった。今年8月には老朽化した機体の内装リフォームも新たに受注した。

 炭素繊維複合材の成形技術でも先行している。一般的に鉄と比べて重さは約25%、強度は約10倍とされる特性を生かし、航空機部材としてエアバス向けに供給している。

 世界の経済成長と航空機需要の増大に伴い、ジャムコの業績も拡大を続けてきた。2016年3月期の連結売上高は915億円と5年前の2倍以上、経常利益は82億円と5倍超に膨らんだ。利益のほとんどを内装品で稼ぐ。

 国内に生産の軸足を置く一方、顧客との取引の7割程度がドル建てで、為替動向が収益に与える影響は大きい。足元の円高は逆風で2017年3月期は5年ぶりの経常減益を見込むが、事業そのものは堅調に推移している。

欧米企業の寡占が勝機に

(写真=エアバス)

 ただ将来の成長戦略を見据えた場合、「既に高水準にあるギャレーと化粧室のシェアを一段と伸ばすのは容易ではない」(大喜多治年社長)。既存事業の蓄積を生かし、新たに攻める余地がある事業がシートだった。

 発端は2010年。小糸製作所の子会社で、航空機用シートを手掛ける小糸工業(現KIホールディングス)で性能試験を巡る不正問題が発覚したのだ。「小糸に頼んでいた分を代替してくれないか」。既に取引があったシンガポール航空が打診してきた。

 この「特注」依頼をこなす中で、シートもやれそうだとの自信が芽生え、2014年、シート事業への本格参入に至った。量はこなせるが価格競争に陥りやすいエコノミーではなく、プレミアムに照準を定めた。

 シンガポール航空に加え、南米のラタム航空からもシートを受注。2000席弱が納入済みで、今年3月末の受注残は約3000席。シンガポール航空はオーダーメード仕様、ラタム航空はエアバス機向けのカタログ(既製)仕様となっている。ジャムコが誇る軽量化技術をふんだんに投入し、カタログ仕様の場合、競合品よりも1~2割は軽いのが売りだ。

 シート市場では仏ゾディアックエアロスペース、米B/Eエアロスペースの2社が世界シェアの過半を押さえる。両社ともM&A(合併・買収)などを経て、売上高で数千億円規模という内装品業界の巨人。ギャレーや化粧室の市場でも、ジャムコにとって強力な競争相手だ。

 だが、ジャムコはそこに勝機があるとみている。少数のメーカーが寡占していることもあり、シートでは納期遅れなどの問題が顕在化している。健全な競争を望む航空会社は少なくなく、新規参入の余地が大きいと考えている。トヨタ自動車グループの内装品メーカー、トヨタ紡織も航空機向けシート事業に参入している。

 目下、ジャムコはワイドボディー向けプレミアムシートでのシェアが5%、売り上げ規模で100億円強。当面の目標であるシェア10%突破に向けて、営業体制強化を急ぐ。

 従来、シートの営業担当者はギャレーと兼務していたが、今年から専任で複数の担当者を張り付けた。水面下では航空会社数社との商談が進んでいるといい、今期中にも新たな納入先が決定する見通しだ。

 デザインの強化にも注力している。今年8月には新たな航空機シートのイメージ「Space X」(59ページ上の写真)を公表した。内装品は単なる設備ではなく、乗客の満足度を高める調度品という側面が強まっている。そこで、日産自動車や独アウディでデザインを手掛けた和田智氏と2015年から協力。洗練された空間や宇宙船のような斬新さを発信してきた。

事業継続が成功の前提

 航空機産業で高いシェアを獲得するだけでなく、新市場を切り開いたジャムコ。突然の相談を受け、リスクを恐れず果敢に挑戦したことが顧客からの信頼獲得につながり、シート事業へと結びつけた。みずほ銀行産業調査部の藤田公子氏はサプライヤーが生き残るカギを「航空会社や完成機メーカーのニーズをくみ取り実現していく取りまとめ力」と指摘する。

 そのジャムコにしても内装品への参入後、半世紀近い時間を費やしてきた。チャンスを呼び込むためには、一過性のブームとしてではなく、粘り強く航空機事業を継続させることが最低限の前提となる。

INTERVIEW
大喜多治年社長に聞く
巨大企業とは違う方法で生き残る
[おおきた・はるとし]1980年一橋大学商学部卒、伊藤忠商事入社。4月から現職。香川県出身。(写真=陶山 勉)

──航空機関連の市場動向をどう見るか。

 「足元の需要はやや厳しい。(2020年に初号機納入予定の)米ボーイングの次世代型大型旅客機『777X』を控えた様子見ムード、エネルギー価格下落による省エネ機種の需要一服なども影響している」

 「ただ、多少の好不調はあっても、予測では年率5%弱のペースで需要拡大が続く。航空機産業は厳格な安全基準などを背景に参入障壁が高いとはいえ、内部での競争は非常に激しい。しかし全体のパイが拡大するのだから恵まれている」

──「オンリーワンの航空機総合企業」を経営方針に掲げる。

 「航空機整備を皮切りに、内装品でギャレー、化粧室と展開してきて、トップシェアの一角に入った。ここでシェアを一段と伸ばすのは容易ではない。次の成長の柱として、これまでの経験や信頼性が生かせる事業としてシートに着目した」

 「技術力で勝負しやすいプレミアムクラスのシートから始めたが、やがてはコストが問われるエコノミーも視野に入れる。軌道に乗れば収益貢献も本格化する。航空機内装品の総合メーカーとしての立ち位置を確立し、買収を重ねて巨大化した欧米の競合とは違った方法で生き残る」

──中長期的な業績目標は。

 「売上高で1000億円、収益性の目安である売上高経常利益率は7%以上を目指す。ドル建ての取引が多く為替動向で業績がぶれるのは否めないが、より収益の安定化を図る。製品の独自性や競争力を高めて利益率を向上させるのが近道だ」

 「航空機産業は10年といったスパンの長期契約の中で、納入単価が徐々に下がっていく仕組みもある。顧客との交渉力を高めるため、品質や納期、価格などへの目配りは当然だが、デザインなどセンスの部分も含めて付加価値を上げていく。国内の生産基盤を守りつつ、為替変動に柔軟に対応するため、海外の生産体制の拡充も検討中だ」

──筆頭株主で、自身の出身母体でもある伊藤忠商事との関係をどう捉えるか。

 「まず大株主として安定感がある。現在は伊藤忠と事業面で直接的にシナジーが見込める関係とは言えない。ただ伊藤忠から見れば、様々な事業投資先が存在し、それぞれが緩やかに連携する形があってもいい。ジャムコにとっては伊藤忠グループの専門性や情報網を活用できる利点がある。私自身、伊藤忠を離れて、そうしたリソースの有用性を改めて感じた」

(日経ビジネス2016年11月7日号より転載)