これまで実用化されてきた空間に映像を浮かび上がらせる手法は、透明の薄膜や霧などに投影するものが多かった。つまり、何もない空間に映像を出していたわけではなかった。しかし近年は技術が進化し、DCRAのように薄膜などを使わずに何もない空間に投影する手法も実現し始めている。

 例えばニンテンドー3DSや3Dテレビで用いられている「視差方式」。左右それぞれの目に違う映像を見せることで距離感を誤認させ、映像を実際の画面から飛び出たように見せる。解像度に上限がないというメリットがあるが、両目のピントが空中映像に合いにくいので疲れやすい。また、この方法は原則的に専用の眼鏡が必要で、裸眼で実現する場合は映像を見られる範囲が画面のほぼ正面に限定されてしまう。

 三菱電機も今年2月に人が通り抜けられる空中ディスプレーを発表。DCRAに似た微小の鏡による光学素子とマジックミラーを用いた手法を使った。要素技術が道路の標識などに広く利用されているため製造コストが低く、大型化も比較的容易な手法だ。ただし、映像がぼやけやすいという弱点がある。

ポケモンGOを実空間で

 こうした手法と比べると、DCRAは解像度に上限があり、大型化には大きなコストもかかる。一方、DCRAの板1枚で投影が可能なため設置が容易で、利用者が動いても映像が同じ位置に見えるという特長がある。前川氏は「どこでも誰でも触れる空中映像に適している。例えば『ポケモンGO』のようなAR(拡張現実)ゲームを、スマホの中ではない実空間で表現できるようになる」と話す。

 パリティは現在企業向けに実験機器として提供しているDCRAを、来春にも一般消費者向けに大量生産する。インターネット通販などでDCRAによりスマホ画面を投影する機器を発売する予定だ。

 当初は1台5000円程度の価格になるが、将来的には1000円まで値下げできるという。「例えば料理の際にレシピを確認するなど画面を汚したくない場合や、医療現場のように手を汚したくない場面で利用してほしい」と前川氏は期待をかける。

 今後の課題はさらなる用途開拓だ。特殊な金型によりDCRAを生産しているため、固定費が大きい半面、量産効果が効きやすい。需要を掘り起こせば、価格の低下や大型化も容易になる。

 壁面や天井にDCRAを並べてARを自在に操作する空間の演出や、CT(コンピューター断層撮影装置)の断面図を連続的に組み合わせて立体に投影する機器など、幅広い活用が考えられる。自動車関連企業とは現在、計器やナビゲーションシステムを投影し、ヘッドアップディスプレーの代用とすることを検討しているという。

 量産機を発売する来年度に備えて、近く増資をし、ベンチャーキャピタルから出資を受け入れる。「来年度は売上高を数千万円に引き上げる。将来的には上場を目指したい」と前川氏は意気込みを語る。

 ロボットの「R2-D2」が映し出したレイア姫の映像が「あなたが唯一の希望です」とジェダイの騎士に助けを求める──。前川氏が学生時代に見た映画スター・ウォーズの著名なワンシーンだ。誰もがSF映画を見ながら実現を待ち望んでいた空中映像。前川氏は自ら開発した新技術でその一角を担おうとしている。

(日経ビジネス2016年11月7日号より転載)