AR(拡張現実)などの分野で実用化が期待される「空中映像」の技術を手掛ける。シンプルな装置や広い範囲から見られる点が特長で、自動車関連などでも応用が期待されている。

(写真=岡崎 利明)
(写真=岡崎 利明)
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 何もないはずの空中にタンポポの綿毛の映像が浮かぶ。指で触れると左右に振れながら綿毛が散っていく。ピアノの鍵盤が映ると、今度は触れる度に音が鳴る。光学機器メーカーのパリティ・イノベーションズ(京都府精華町)が開発した投影機による「触れる空中映像」だ。

 投影機の下にスマートフォンを差し込むと、画面が空中に浮かび上がって見える。装置内に組み込んだカメラが指の動作を認識し、空中に映し出された映像を触ることで、スマホのタッチパネルも操作できる。

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 パリティの前川聡代表取締役はもともと、総務省所管の国立研究開発法人、情報通信研究機構に所属。生体信号などの研究を専門としていたが、立体映像を記録する「ホログラフィー」に興味を抱き、空中映像の研究に取り掛かった。

 そして、2006年に主任研究員として特許取得に関わったのが、空中映像用の光学素子だ。前川氏はこれを「2面コーナーリフレクタアレイ(DCRA)」と名付け、実用化を目指して2010年にパリティを設立した。

 DCRAは、直角に組み合わされた1辺の長さ数百マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の微小な鏡2枚のセットを、数十万個以上並べた板状の光学素子。上の図のように、元の物体から出た光は2枚の鏡に反射し、DCRAに対して面対称の位置で結像する。凸レンズや凹面鏡で映す映像と違ってゆがみが生じない。また微小な鏡を使うことで光線が誤差なく集まるため、映像がぼやけにくい。

 前川氏は「鏡に映った世界を、鏡の中に入って見られるような装置だ」と解説する。3次元映像を立体的に空中に投影することも可能だ。

素材探しに10年苦心

 基礎理論を確立してからは、DCRAの実用化に向けた素材探しや加工法の開発に追われた。当初は金属やアクリルで試作品を作ったが、加工の難しさやコストの面で折り合わず断念。約10年の試行錯誤の末に、液晶のバックライトなどに使われている樹脂に行き着いた。高精度の金型でこの樹脂を鏡面に加工する。

 実用化のめどがついたことで昨年、情報通信研究機構を退職。退路を断ってパリティの経営に挑んでいる。

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