色や形、においがない電気に、“個性”という付加価値を与えた。「顔の見える電気」「誰でも発電」で個人間取引を実現し、電力業界を変える。
のどかな住宅地に隣接する東京都八王子市の牧場、磯沼ミルクファーム。乳牛が干し草を求めて歩き回る牛舎の屋根に、真新しいソーラーパネルが輝く。ここ、「かあさん牛のヨーグルト工房発電所」で作り出した電気を購入すれば、特典として牧場で生産しているヨーグルトが届けられる。
今年4月に始まった電力小売り全面自由化。各家庭が新規参入事業者と契約できるようになったが、東京ガスやソフトバンクといった大手事業者を選択するのが一般的だろう。
みんな電力(東京都世田谷区)の小売りサービス「顔の見える電気」は違う。約60カ所の小規模発電所から自由に購入先を選ぶことができるのだ。
アイドル、プロレス発電所も

「契約者は発電所の個性を評価し、選んでくれるのでやりがいがある」。ヨーグルト工房発電所を運営する一般社団法人八王子協同エネルギーの加藤久人代表理事はこう話す。こことは別に八王子市内の福祉施設にもソーラーパネルを設置し、契約者に手作りのジャムやせっけんをプレゼントしている。
みんな電力と提携する発電事業者は小規模だが、ユニークなところばかり。11月にはミュージシャンの小林武史氏が運営する太陽光発電所が新たに加わった。小林氏がプロデュースを手掛けるMr.Children、一青窈といったミュージシャンの曲をダウンロードできる特典の付与を検討している。
「アイドル発電所」や「プロレス発電所」などの企画も進行中だ。前者はアイドルとチャットでやり取りできる権利の付与、後者では提携発電所で作った電気を流す「金網電流爆破デスマッチ」の開催などを企画している。

「電気には色も形もにおいもないため、安ければいいという発想になりがちだが、工夫すれば特徴を出せる。エネルギー問題に興味はなくても、アイドルやプロレスのファンはいる。そんな“無関心層”を取り込んでいきたい」。みんな電力の大石英司社長はこう語る。
みんな電力は大手電力会社との提携ももくろむ。例えば、電力会社が所有する水力発電所は現在、環境負荷が小さいにもかかわらず、石炭火力など他の発電所の電気とともにパッケージ化され、同じ価格で取引されている。
大石社長は「発電所がある地元の観光とセットで打ち出せば、多少高くてもそこの電気を買いたいという人は出てくるはず。地域貢献に力を入れていることを伝えられ、電力会社の企業価値を上げることができる」と強調する。
小規模発電所のネーミングライツ(命名権)を企業に売り出す企画も動き出した。11月には、アディダスジャパンが命名権を取得した発電所から同社が協賛するアート展に電気を供給することが決定。現在は約60カ所の提携発電所をさらに増やしていく考えだ。
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