ファーウェイのケン・フー副会長は「この独自の仕組みが我が社がグローバル企業に成長する原動力になっている」と断言する(インタビュー記事参照)。

 フー副会長が現在務めている「輪番CEO」も、ファーウェイ独特の仕組みだ。これは、取締役の中から3人のCEOを選び出すもの。各CEOが半年を任期として全社の経営を統括する。「技術の変化が速く激しいICT業界においては、ある1人の人間の経験だけを頼りに意思決定をするのは危険」との考えに基づいて導入したものだという。その経営者が仮に非常に優秀な人材であっても絶対視はしない。

 これまで見てきたファーウェイのグローバル化を支える企業文化はいずれも、時代や環境が変化しても、外部からの圧力に影響されることなく、自らの力で柔軟に変われるよう、経営の自由度を高めておきたいという思想の表れと言えるだろう。日本企業が学ぶべき点は数多い。

カリスマ去っても文化は生きるか

 ファーウェイの将来を脅かす懸念は、カリスマ的な魅力を持つ任CEOが同社から去った後に、ファーウェイをグローバル企業に押し上げた企業文化の強みを維持できるかだ。

 任CEOが培ってきた企業文化は恐らく、同氏をカリスマにしないための防波堤の役割を果たしている。意思決定者を分散させる輪番CEO制はその典型だ。創業者の任CEOがわずかな株式しか保有していないのも同様だろう。だが、見方によっては任CEOに代わるカリスマ経営者を生まれにくくする仕組みと言える。

 社員持ち株制は、社員のモチベーションを高めるのに役立つ一方で、外部からの批判をシャットアウトするリスクがある。

 反グローバル化の動きが世界で勢いを増しかねない中、中国企業というだけで風当たりが強まることもあり得る。同社は今、グローバル企業としてのさらなる進化が求められている。

INTERVIEW
閻力大・法人向け事業総裁に聞く
非上場だから顧客と長期の関係を築ける

 私が率いる法人向けICT事業は、一般の企業などに向けてICTを使った様々なソリューションを提供するのが仕事です。

 この事業は5年前の2011年にスタートしました。初めの頃はまるでスタートアップ企業のよう。最初の数年は非常に大きな課題に直面しましたし、苦労もしました。しかし、2015年、2016年と高い成長が続いています。

 事業が伸びている要因はいくつかあると思います。1つ目は環境の変化。デジタル化があらゆる業界に変化をもたらしています。現在は各業界が生産システムなどにクラウドやビッグデータ、IoTといった最新のICTを使い、業務の改革を実現しようとしています。

 2つ目は、時間をかけて研究開発に取り組んできた成果が出ているからだと思います。ご存じの通り、我々は研究開発を非常に重視しています。中国には「厚積薄発」という言葉があります。努力をしても最初はリターンがない。しかし、努力が蓄積してある程度の量に到達した時に、結果となって表れるという意味です。

 さらに我々は情報や通信といった分野に集中しており、その他の分野に力を分散させることもありません。また我々が持つ顧客中心主義の文化も成功の要因です。

 「顧客中心」とどの企業も口にしますが、正しく実行できている企業はほとんどありません。自社の利益と顧客の利益がぶつかる場合に、どちらを優先するのかは非常に難しい問題です。

 我々が顧客中心主義を長きにわたって保つことができたのは、そのための仕組みがあったからです。例えば長期にわたって顧客満足度を調べています。また、会社が幹部を選ぶ際には、ファーウェイの価値観に合致している人物を選びます。さらに幹部社員は毎年研修でファーウェイの考え方を学びます。

 我々は単なる技術主導の会社ではありません。顧客の要求によって動く会社です。素早く機敏に顧客に応えることができます。これはほかの企業がなかなかできないことだと思います。

 上場企業でない点も我々の強みです。四半期ごとの数字にしばられる必要がなく、より長い目で見て適切な戦略を実行できるからです。時には我が社の短期的な利益を犠牲にしてでも顧客に価値を提供する、といった経営判断が可能です。(談)

(上海支局 小平 和良)

副会長兼輪番CEOケン・フー氏のインタビュー記事はこちら

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