ファーウェイは研究開発に力を入れる企業として有名だ。同社の2015年の研究開発投資は日本円で約9500億円に上る。これはトヨタ自動車のそれに匹敵する規模だ。さらに2015年の国際特許の出願数は3898件で、2年連続で首位。日米欧や同じ中国の企業を大きく引き離している。

研究開発への投資は世界トップクラス
●ファーウェイの営業利益
●ファーウェイの営業利益
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●研究開発費
●研究開発費
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●2015年の国際特許出願数
●2015年の国際特許出願数
出所:世界知的所有権機関(WIPO)
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 研究開発の仕事に就いている従業員は約7万9000人と全従業員の45%に達する。ある従業員は「カナダに5G研究の権威がいれば、『カナダに新しい研究所を作ってしまおう』というのがファーウェイの考え方」と話す。資金力に加えて柔軟な思考が、優秀な研究者を引き寄せ、世界標準作りにまい進する原動力になっている。

 高い技術を持っていても使われなければ意味がない。オープンな協力関係を利用しながら、将来の業界標準となる技術の開発に取り組む様子は、グローバル企業と呼ぶにふさわしい。

 ファーウェイは未上場企業で、創業者である任CEOと従業員が株式を保有する社員持ち株制度を採用している。任CEOの持ち分は全株式のわずか1.4%で、残りは約8万人の従業員が持つ。

 中国の企業は株主の数が制限されるため、全ての従業員が実際の株式を手にできるわけではないが、社員持ち株を管理する持ち株会社に仮想的に出資する形を取る。一定以上の社内資格があれば海外の社員でも出資できる。同社は純利益の大部分を配当として支払っており、これを社員株主が受け取る。

 ファーウェイの企業文化はかつて「狼」と呼ばれる時代があったという。目的を達成するためには、手段を選ばないことから付いた比喩だ。日本法人ができた直後の2006年に日本企業からファーウェイに移った松本安文さんは同社の文化を「目標が決まったら戦略や戦術が固まっていなくても走り出す。仮に失敗してもすぐに軌道修正し、手を尽くして目標達成にこぎ着けてしまう」と説明する。

 こうした企業文化は社員持ち株制度と深く関係している。会社の業績と自身の収入が直結するため、従業員「全員が経営者になる」(任CEO)。さらに、短期志向の投資家の影響を受けることなく、長期戦略を立てられる利点もある。

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