豪州で競合の富士通と協力
中国企業のファーウェイは米国政府から警戒される存在だ。だが、米インテルや米IBMと共同で研究を進める拠点を持っている。他の企業と協業するためのこうした共同イノベーションセンターは世界36カ所に上る(下の地図を参照)。さらに、大学との共同研究にも数多く取り組む。
社外にいる個々の開発者との協力関係強化も重視する。2015~20年の間に10億ドルを投じて、開発用ツールやオンラインサポートからなる開発者向けのプラットフォームを整備する。担当するライアン・ディン常務は「現在は中国の開発者が中心だが、欧州や中東、ラテンアメリカなどにも展開して2020年までに100万の開発者と協力関係を築きたい」と話す。
協力関係を築く事業分野も多様だ。世界各地で広がりつつあるスマートシティーについても協業を推進する。同事業を統括する鄭志彬氏は「様々なパートナーと協力していきたい。我々はプラットフォームを提供する」と話す。
通信機器の事業で競合する富士通とは、オーストラリアのスマートスタジアムの事業などで協力関係を築いている。必要とあれば、競合している相手と組むこともいとわない。
特別な強みがない中でどう生き残るのか考えざるを得なかった環境が、様々なパートナーと組む道を選ばせた。任CEOが人民解放軍で働いた経験を持つため誤解を受けやすいが、ファーウェイは民間企業だ。国の関与が大きい通信の領域で、国有企業や技術力の高い海外企業との競争を重ね、生き残るのは容易ではなかった。例えば、英国では当初、中国企業であるため警戒されたが、英BTグループとの協力関係のおかげで進出を実現した。これらの経験がグローバル企業への成長を促す企業文化に昇華した。

オーストラリア・メルボルンの上下水道会社、サウスイーストウオーター(SEW)はファーウェイと組んで、スマートメーターを使った水道設備のIT化を進めている。
スマート水道がもたらす効用は、利用者がスマホで使用量をチェックできるといったことにとどまらない。水道管に取り付けたセンサーで漏水を検知し、メンテナンスを容易にできる。
水道会社にとって、漏水は大きな悩みの種だ。SEWのケビン・ハッチングス・マネージングダイレクターは「10%程度の水が漏水で無駄になっていた。スマート化によってこれを大きく減らせる」とその効果を絶賛する。
給水タンクにためる水の量を天気などに応じて細かく調整することもできる。水が使用される日時や量を計測することで、住民の安否を確認することも可能だ。
同社が現在、試験運用を始めているのが下水道のスマート化だ。建物ごとにタンクを備え付け、タンク内にたまった汚水の量に応じて下水道への流量を変える。こうすることで下水処理場の作業を平準化する。
各タンクのデータを送信するのに使うのが、NB-IoTと呼ばれるIoT(モノのインターネット)向け通信規格の標準だ。SEWが独自に開発したスマートメーターは、ファーウェイのNB-IoTチップを搭載している。
NB-IoTはファーウェイのほかスウェーデンのエリクソンなどが研究を進めてきた。NBはナローバンドの略。消費電力が少なくて済むため、例えばNB-IoTチップを地中に埋めたまま10年間使い続けるといったことができる。
ファーウェイはNB-IoTの普及に力を注いできた。エリクソンやインテル、フィンランドのノキアなどともに、NB-IoTに関するフォーラムの設立準備を昨年から開始。世界各地の標準化団体で構成される移動通信の標準化プロジェクト3GPPは今年6月、NB-IoTの標準化仕様の策定を終えたと発表した。水道のほか、スマートパーキングやスマート街灯への応用なども含め、実用化が間近に迫っている。
グローバルな標準を構築する実力は、自社製品が活躍する市場を世界規模で押し広げる強力な武器となる。
ファーウェイが世界標準を目指すのはNB-IoTだけではない。第5世代(5G)高速移動通信では、世界標準を目指す仕様をNTTドコモやソフトバンクと共同で研究している。
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