中国経済が足元で減速してきたこともあって、多くの中国企業が海外市場に目を向け始めた。中国政府が打ち出した、シルクロード周辺国との関係強化を目指す「一帯一路」政策や、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立が企業の海外進出を後押しする。中国企業による欧米や日本企業の買収も増加している。だが、真のグローバル企業と言える会社はまだ少ない。

 その中にあってファーウェイは、グローバル企業としての地位を確立した。「中国企業」と聞いた時に想起されるありがちなイメージ(例えば「安かろう、悪かろう」という言葉で表される)とは懸け離れた姿を世界に示している。

創業から30年でグローバル企業に
●ファーウェイの概要

最高経営責任者(CEO)の任正非氏らが1987年に設立。本社は中国 南部の広東省深圳市。
携帯電話事業者の基地局など「通信事業者向けネットワーク事業」がメー ン。このほか、「コンシューマー向け端末事業」と「法人向けICTソリューショ ン事業」に取り組む。前者はスマホやタブレットが主力。後者は、企業や 公的機関にITサービスを提供するもの。
世界170カ国以上で事業を手掛けている。2015年のスマホ出荷台数は サムスン、アップルに次ぐ世界3位に。
非上場で、社員持ち株制を取る。創業者の任CEOと社員が株主。
取締役の中から輪番CEOを3人選ぶ独特のガバナンスを取り入れてい る。各CEOの任期は6カ月。
<b>創業者の任正非CEOは人民解放軍出身</b>(写真=AP/アフロ)
創業者の任正非CEOは人民解放軍出身(写真=AP/アフロ)
<b>スマホは昨年1億台超を出荷した</b>(写真=Bloomberg/Getty Images)
スマホは昨年1億台超を出荷した(写真=Bloomberg/Getty Images)

 かつてはアフリカや東南アジアの新興国に特化して強いという印象があったが、アムステルダム・アレナの例が示すように、今日では欧州などの先進国にも完全に根を張っている。

 日本でも事業範囲を着実に拡大している。例えば阪神電気鉄道のパートナーとして、同社の無線通信事業の屋台骨を支える。阪神電鉄のグループ会社が昨年9月、無線システムの免許を取得。地域は限られているものの、独自のSIMを発行するなどNTTドコモやKDDIと同様の事業を展開する。

 ファーウェイはこの事業のコア設備を納入した。阪神電鉄の宮川修一氏は「日本の通信機器会社は大きな通信事業者の目を気にして我々とは取引してくれなかった。ファーウェイのおかげでこの事業を開始できた」と話す。

 ファーウェイが海外に進出したのは1997年。その後、2000年代に入って急成長を遂げ、2015年の売上高約600億ドル(約7兆円)超のうち、55%を海外で稼ぎ出すまでに成長した。事業を手掛ける国は170カ国以上に及ぶ。

2000年以降に急成長を遂げた
●ファーウェイの売上高
2000年以降に急成長を遂げた<br />●ファーウェイの売上高
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 なぜファーウェイはグローバル企業になり得たのか。閉鎖的と見られがちな中国企業ながらオープンな姿勢で欧米企業などと協力関係を築き、各国の市場に入り込んだ。このような協力関係と潤沢な研究投資によって、通信規格の標準化の議論に加わるようになった。また、社員持ち株制をはじめとする独特のガバナンスが従業員のやる気と経営のスピードアップをもたらした。これらを戦略的に実行してきたことでファーウェイはグローバル企業へと成長した。以下、順に見ていこう。

 「日本はこの100年で生まれ変わり、『高品質』の代名詞となった。中国も何年もの努力と何度かの生みの苦しみを経て、高品質を示す新たな代名詞となれると信じている」。今年4月、日本を訪れたファーウェイ創業者の任正非CEO(最高経営責任者)は、日本で働く研究員らを前にして、こう語った。この発言からは良いものは貪欲に取り込む同社の強い意思がにじむ。

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