課題は国内で「稼ぐ力」

 これまで、郊外で鍛えられてきた事業モデルの強さが、海外展開で発揮されている様子を見てきた。だが、シャトレーゼの強さの源泉だった郊外の衰退は今後も進みそうだ。齊藤社長も「海外はすごい勢いで伸びているが、日本はちょっと伸びが悪い」と認める。

 シャトレーゼに限らず、外食や小売りの郊外型ロードサイド店は、最近のクルマ離れや少子高齢化によって苦戦を強いられているところが少なくない。さらに、全盛期を支えたフランチャイズ加盟店オーナーの高齢化も進み、世代交代をどう進めるかも課題の一つになっている。

 こうした状況を打開しようと、2006年と15年の2度、首都圏都心部の開拓を狙って、駅前などに小型店を展開したこともあった。だが、期待通りの成果は出なかった。そこでここ数年は、海外展開に力を入れる一方で、国内でも新たな成長の柱を作るべく、試行錯誤を続けてきた。

 まず主力の郊外では、11月から一部店舗でカフェの展開を始めた。これまで店舗で大きなスペースを占めていたアイスのショーケースを3分の1ほど減らし、空きスペースで自社の商品で作ったパフェなどを提供する。まずは来店を促し、新たな顧客に育てていく作戦だ。

 ショッピングモールへの出店にも力を入れている。若者のクルマ離れや高齢者の危険運転の発生リスクを防ぐために、ロードサイド中心の出店計画を見直した。モールでは、衣料品の売り上げが苦戦しており、集客力のあるテナントの誘致に力を入れている。そのため賃料を安く提示されることが増えており、比較的安い商品を販売しているシャトレーゼでも採算が取れるようになっている。

 ただし、都市部への人口集中が進む中で、郊外中心の事業モデルだけに頼るわけにはいかない。とはいえ、都市部で店舗を出そうにも、賃料が高くて採算が合わない。そこで今年10月から、関東の1都6県を対象に送料無料の通販サービスを始めた。齊藤社長は「送料はPR代と割り切った。まずは都市部に住む人にもシャトレーゼのおいしさを知ってもらいたい」と意気込む。まずはファンを育て、その後、出店を検討するという長期戦だ。

 従来のおいしさに加えて、新たな商品の切り口も模索している。それが健康だ。既に展開済みのアレルギー対応や糖質オフの商品を強化するだけでなく、グルテンフリーなどの新たなトレンドに対応した商品も増やす。健康を意識した商品は、中長期的にアジアや中東などの海外でも必要な商品になる可能性が高く、今から準備が必要な商品だ。最近ではパティシエを自社で採用し、おいしさと健康を両立した商品の開発を急ぐ。


 内需型企業の多くは今、少子高齢化やネット通販の普及など、事業環境の急速な変化にさらされている。シャトレーゼも、そうした時代の変化の中で大きな岐路に立たされた一社だ。国内事業の再強化にはまだ課題が残る。

[画像のクリックで拡大表示]

 それでも同社は、創業期から磨き上げてきた郊外型の事業モデルの強さを、海外という異なる市場で再発見し、新たな成長の鉱脈を掘り当てた。こうしたシャトレーゼの事例は、長年にわたって日本の消費者に支持されてきた事業ならば、国内の成長に陰りが見えたとしても、展開する地域や対象とする顧客を変えれば、まだ十分に通用する可能性があることを示唆している。

 先行きが不透明な今だからこそ、自社が培ってきた強みは何なのか、少し立ち止まって棚卸をすることが、さらなる成長の場を見いだすうえで重要なのかもしれない。

INTERVIEW
齊藤寛社長に聞く
同族経営だからこそ思い切れる
<span class="pink">シャトレーゼホールディングス社長<span class="fontSizeL"><br />齊藤 寛氏</span></span>
シャトレーゼホールディングス社長
齊藤 寛氏
1934年生まれ。54年にシャトレーゼの前身となる「甘太郎」を開店。67年にシャトレーゼを設立し、社長に就任。2010年にシャトレーゼHD社長。かつては両足首に重りをつけて体を鍛えていたが、現在は重りをつけるのをやめて、週3回ほどジムに通い筋トレに励む。最近の悩みは少し太ったこと。(写真=北山 宏一)

 今、シャトレーゼは創業から手掛けてきた郊外中心の事業モデルを変革させる時期に来ています。人口が都心にシフトしていく中、郊外の将来に危機感を持っています。変化を先取りするために、海外の出店を強化し、郊外店舗はカフェに切り替え、モールへの出店も始めました。

 思い切った経営ができるのは、当社が同族経営だからです。実は10年以上前に上場しようと思ったことがありました。しかし、当社には「三喜経営」という理念があります。第1にお客さん、第2にフランチャイズの加盟店オーナーや契約農場などの取引先、第3に社員という順番で、全員に喜んでもらおうという考えです。もし上場すれば、お客さんではなく、株主を第1に考える経営をせざるを得ません。それに気づき、上場寸前で私がストップをかけました。

 当社の強みである契約農場のシステムは、三喜経営を実現する大切な仕組みです。整備するのに約30年かかりましたが、今では競争力の源です。私たちは市場よりも安い価格で品質のいい原材料を仕入れることができますし、農家は地元農協よりも高い価格で安定した量を私たちに販売することで、おいしい農作物を作ることに集中できます。私の実家がブドウ農家だったからこそ、農家が喜ぶ条件がよく分かるのです。

 契約農場のように変化させてはいけない仕組みがある一方で、現状維持ではダメな部分もあります。時代に合わせて、海外や通販などの事業を強化しなければいけません。国内市場が縮小する中、お菓子屋さんの数はぐっと減るでしょう。コンビニエンスストアに食われるような中途半端なお菓子屋さんは生きていけない。だから、無添加や糖質オフのような健康ニーズに応えるようなお菓子の開発が必要です。

 消費者のニーズにいち早く応えるため、相談室に来た要望は全て私が目を通しています。これは必要だと思ったら、すぐに社内に号令を出します。意思決定は速いですよ。

 「儲け」という漢字は「信」と「者」の組み合わせです。信者を増やせば、儲けにつながる。つまりファンを増やせば利益は増えると考えています。

 今、私は83歳ですが、仕事が好きなので、あと10年くらいは社長を続けられるかなと思いますね。遊んで暮らすのは退屈でしょうがないですから。(談)