郊外のロードサイド店──。菓子の製造小売り「シャトレーゼ」の店舗には、そんなイメージが強い。だが今、東南アジアの都市部を中心に、海外で急速に店舗を増やしている。その強さを支えているのは、衰退がささやかれる日本の郊外で磨いた事業モデルだ。

(日経ビジネス2017年12月25日・2018年1月1日号より転載)

シンガポールの店舗は、週末の夕方になると、家族連れが大勢訪れ、ケーキやアイスが売れる(写真=原 隆夫)
シンガポールの店舗は、週末の夕方になると、家族連れが大勢訪れ、ケーキやアイスが売れる(写真=原 隆夫)

 「どのケーキにする? 新商品もおいしそうね」。週末の夕方、シャトレーゼの店舗には、ひっきりなしに客が押し寄せ、ホールケーキやアイスクリームなどが飛ぶように売れる。ただし、そこで飛び交う言葉は日本語ではなく、英語だ。ここはシンガポールのショッピングセンター内の店舗。シャトレーゼ海外営業部の渡邊秀太朗氏は、「日本だとホールケーキは1日に5個ぐらいしか売れないが、シンガポールでは10個ほども売れる」と笑顔を見せる。

 1954年に典型的な地方の“お菓子屋さん”として、今川焼きの販売から商売を始めたシャトレーゼ(山梨県甲府市)は、現在は洋菓子や和菓子、パンなど幅広い商品を手掛ける。商品は自社で製造し、フランチャイズ方式で広げた全国の店舗に届け、販売してきた。店舗数は国内で495店で菓子の製造小売りとしては最大級だ。

 だが、これまで郊外のロードサイドを中心に事業をしてきたために、都市部の消費者にはあまりなじみがない。そんなシャトレーゼがなぜ、日本の「郊外」とは何の共通項もないような「海外の都市部」で急速に店を増やすことができているのか。その答えは、日本の郊外で磨かれたシャトレーゼの事業モデルにある。

海外1店目の立地は「悪条件」

売上高は増加傾向にある
●シャトレーゼHDの連結売上高と国内外の店舗数推移
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 「さあ、海外に行くぞ」──。

 2015年、シャトレーゼの本格的な海外進出は、持ち株会社シャトレーゼホールディングス(HD)の社長で創業者の齊藤寛氏の一声で始まった。背景にあったのは、厳しさを増す郊外の事業環境に対する危機感だ。同社の事業を支えてきた郊外のロードサイドは、少子高齢化と都心へ人口流出が進んだことで、かつての活気はない。シャトレーゼも、最盛期の03年に505あった店舗数は、09年までに431に減らした。その後、徐々に店舗数は回復したものの、10年代前半は450店程度と、拡大にブレーキをかけていた。

 新たな成長の柱を探す中で、これまでも海外進出を検討したことはあった。だが、国内事業を優先していたことに加えて、東南アジアの消費者はまだ購買力が十分にないと考えて見送ってきた。ところが、今回は違った。14年秋にシンガポールで1週間のテストマーケティングを実施してみると、想定以上の客が訪れたからだ。