利用者の嗜好を浮き彫りに

 ヤフーショッピングを例に取ると、現在は買い物をしている顧客に対し、購入履歴などのデータだけでオススメ商品を表示する仕組みになっている。しかし、その顧客がヤフーのニュースサイトでどんなニュースを見て、どんなキーワードで検索サービスを利用したか、といった情報まで組み合わせると、より精度の高い提案が可能になる。「日本の顧客を最も知っている会社になる」と宮坂社長は意気込む。

 日本貿易振興機構によると、16年の国内ネット通販市場は、シェア1位のアマゾン(20.2%)と2位の楽天(20.1%)が拮抗している。3位のヤフーは両社の半分以下の8.9%にとどまった。

 2強に対抗するため打ち出した秘策が、親会社のソフトバンクグループとの連携強化だ。具体的には今年2月から始めた「ポイント10倍キャンペーン」。ヤフーショッピングの利用で与えられるポイントは、通常100円の買い物につき1ポイント。それに対し、ソフトバンクのスマホ利用者には10倍の10ポイントをつけた。これもあって17年4~9月期のヤフーショッピングの取扱高は前年比39%増の1407億円と大きく伸びた。ただ、ソフトバンクとの折半となったポイント原資の負担が重く営業利益は5%減となった。

 仮に、宝の持ち腐れとなっていた顧客データを的確に分析できるようになれば、こうした「実弾」攻勢による疲弊を回避しつつ、2強を追うことができる。

 もちろん、こうした手法は競合他社も進めている。グーグル、アマゾンだけでなく、LINEや楽天など、国内外のライバルもこぞってビッグデータの収集と活用に突き進んでいる。ヤフーが先行している保証はどこにもない。

 ビッグデータというイノベーションを推進するカギもやはり人にある。

 もともとポータルサイトを入り口とする広告事業を中核としてきたヤフーには「営業の会社と思われがち」という悩みがあった。「実はネットインフラを支えるエンジニアリングの会社なのだということを、もっと広く認知してもらう必要がある」と藤門千明・上級執行役員CTO(最高技術責任者)は話す。

 なおも巨大なポータルサイトとして、また3位とはいえネット通販業界での主要プレーヤーとして、そのシステムを支える2500人の技術者が社内には存在する。ただ、タイムマシン経営を続けてきたヤフーの場合、どちらかと言うと、イノベーションを起こすよりも安定的にシステムを運用することに意識が置かれていた面がある。

 ライバルとの競争に打ち勝つ人材を集めるために採用活動を刷新した。今年4月、CTOの直轄組織「クリエイター人財戦略室」を新設。従来の人事部門に代わって、エンジニアの採用活動を主導する体制に改めた。採用面接には現場のエンジニアはもちろん、CTOも席を並べ、応募者を吟味する。

 既に働いているエンジニアやデザイナーの意識改革にも乗り出している。その一つとして、10月に「マイポラリス」という制度を導入した。

 これは自発的な知識習得やスキル向上にかかる費用として、1人当たり月1万円まで支給するというもの。支給対象は約3000人。書籍の購入や勉強会への参加など使いみちは自由だが、何に使ったか社内でオープンにすることをルールとしている。

 「社内でエースと呼ばれるエンジニアが見えないところでどんな努力をしているのか。若手は、それを知るだけでも参考になるはずだ」と藤門CTOは話す。年間売上高が8000億円を超えるヤフーにとって、かかる費用はさほどでもないが、大企業病に陥りがちな社員に刺激を与えるために、こうした細かい仕掛けも始めた。