百貨店と提携、「ご当地衣料品」

 国内の縫製業はこの数十年、衰退の一途をたどってきた。コストに勝る中国や東南アジアへ仕事が流出してしまうため、国内の縫製工場は雇用を維持できずにきたからだ。

顧客基盤は順調に広がる
●「ヌッテ」の会員数の推移

 伊藤社長自身、職人として問題意識を感じた一人だ。早稲田大学を卒業後、自分のブランドを立ち上げようと服飾の専門学校で学んだ。10年ほど縫製職人として働いたが、「時給換算で1000円稼ぐのも大変」(伊藤社長)というのが実態だった。衣料品の価格競争に加え、縫製の現場へ仕事が回ってくるまでに複数の業者が間に入ることも薄利の原因となっていた。

 転機になったのは2010年ごろ。ダンスウエアのネットショップから伊藤社長が仕事を直接受注し、顧客との直接取引による利益率の高さに気付いた。全国で推計20万人とされる縫製職人が仕事に誇りを持てる報酬を得られるようにしたい。そんな思いで依頼者と職人をつなぐヌッテを立ち上げた。

 反響は大きい。登録者数の伸びとともに、累計の成約件数は約4000件、成約金額の合計である取扱高は2016年12月期で約2億円を見込む。ヌッテを通じた受注で月40万円以上稼ぐ職人も出てきた。透明性のある取引環境を作ることで埋もれていた需要を掘り起こした。2017年12月期は成約件数で1万5000件の突破を目指す。

 ステイト・オブ・マインドは成約金額のうち2割を手数料として職人から得る。2016年9月には業容拡大に向けたシステム投資のため、第三者割当増資でみずほキャピタルなどから1億円を調達。縫製業界はこれまでIT化が進んでいなかったこともあり、同種の競合企業はこれまで存在しないという。

 同一規格の大量生産モデルに行き詰まった大手からも、小回りの良さが注目を集める。百貨店のそごう・西武は2016年6月から広島や徳島などを皮切りに、各地の消費者によって微妙に異なるデザインなどの嗜好を反映させた「ご当地衣料品」の生産でステイト・オブ・マインドと提携。ヌッテに登録した地元職人に生産を任せる。

 小ロットでも気軽に取引できる基盤が拡大すれば、依頼者、職人の双方に大きな利点がある。消費者に新たな価値やファッションの楽しさを提供できるか。持続可能な縫製業への試行錯誤は始まったばかりだ。

(日経ビジネス2016年12月5日号より転載)