悩んだ末に考えたのが、独創的な商品を新たに開発して、これまでにない市場を開拓すること。同社の技術的な強みを生かして、新ジャンルの金属洋食器に挑戦することを決めた。

DATA
山崎金属工業
1952年設立
本社 新潟県燕市大曲2570番地
資本金 5505万円
社長 山崎悦次
売上高 12億8600万円(2017年3月期)
従業員数 55人
事業内容 金属洋食器製造販売、ステンレス鋼材卸、金属部品製造
伸び悩みをカレースプーンで打開へ
●山崎金属工業のスプーン出荷本数

 そのターゲットは老若男女問わずよく食べるカレー。全日本カレー工業協同組合の試算では、日本人1人あたり年間50皿も食べる。それだけスプーンを使う頻度も高いと判断した。

 「カレー専用スプーンには、スプーンを再発明する意気込みで臨んだ」。山崎社長はこう強調する。開発が始まったのは2015年。担当者が東京屈指のカレー激戦区として知られる神田と神保町の有名店を何十軒も食べ歩いた。店内でカレーを食べる様子を観察し、望むスプーンの形を聞き取っていった。

 「若手の開発者は何度も出張し、カレーを食べ続けて体重が増えたが、おかげでどんな商品が求められているのか分かった」(開発を担当した山崎修司工場長)。こうしてユニークなカレー専用スプーンのアイデアが固まった。

 先端部分が非対称でヘラ状になるなど、形状が複雑なスプーンで、設計や金型づくりは難しかった。「これまでにない構造のスプーンづくりに、開発部門も戸惑いがあった」(山崎工場長)

市場に出回る安価なスプーンは6工程ほどだが、「サクー」は研磨などに計30工程をかけている

 だが、山崎金属工業には長年培ってきた金属加工のノウハウがある。熟練した技能を持つ職人が開発担当者と議論を繰り返し、具材を切りやすい一方、安全で、カレールーとご飯をすくいやすいスプーンの仕様を固めていった。

 こうして完成したカレー専用スプーンは、発売前から注目を浴びた。まず会社の記念品にする洋食器を探しに来た大手メーカーの担当者が、カレー専用の機能と「高級品と変わらない研磨回数で磨き込んだ」という見た目に関心を持ち、3000本を注文した。

 さらに、ケータリングでカレーを食べることの多いSUBARUのレーシングチームの目に偶然留まり、チームロゴを刻印した商品に採用された。カレー専用というユニークさが発売前から話題になって、SNS(交流サイト)などで情報が拡散していった。

 7月31日の発売後は、テレビなどのメディアでも取り上げられ、商品は飛ぶように売れていく。カレーというと国内をイメージするが、意外なニーズも出ている。「海外からの引き合いもあり、肉を切り、ご飯をすくって食べるシンガポールのチキンライス用に商談が進んでいる」(山崎工場長)

人材育成にもつなげる

 人気の高まりを受け、若手社員の士気も向上しているという。「カレー専用だけでなく、洋食器を再発明する次のアイデアが若手から出てきている」。山崎社長は笑顔でこう語る。ユニークな機能とデザインを両立させる洋食器プロジェクトが複数進んでいるという。

 こうした取り組みは人材不足の解消にもつながりそうだ。山崎金属工業は研磨などで高い技術を誇るが、高齢化が進んでいる。定年を60歳から65歳に延長するなどしているが、数十年先までその職人が現役でいることはない。「面白い取り組みをしている会社と評判になれば、入社希望者が増える。その結果、技能伝承もできるはずだ」。山崎社長はこう期待する。

 「高品質のメード・イン・ジャパンはまだまだ生き残っていける。そのために知恵を絞り続ける」。山崎社長の挑戦は終わらない。