金属洋食器の老舗がカレーを食べるのに適した専用スプーンを開発してヒットさせている。若手のアイデアと熟練の技で革新を生み出し、市場環境が変化する中で成長を目指す。

(日経ビジネス2017年11月13日号より転載)

<span class="title-b">大きな具でもサクッと切れる</span><br />開発担当者は何十軒ものカレー店で食べ歩き、カレーに適した形状の専用スプーンを開発した
大きな具でもサクッと切れる
開発担当者は何十軒ものカレー店で食べ歩き、カレーに適した形状の専用スプーンを開発した
カレー専用スプーン「サクー」のものをすくう部分は、先端がヘラ状で非対称になっている
カレー専用スプーン「サクー」のものをすくう部分は、先端がヘラ状で非対称になっている

 「食べ物をすくう部分が非対称なスプーンなんてタブーもいいところですよ」。金属洋食器を作る職人をこう不安がらせたカレー専用スプーンがヒットしている。「サクー」という名のこのスプーンを製造するのが新潟県燕市の山崎金属工業だ。

 数百円程度が多いスプーンの中で1350円(税込み)という比較的高めの価格ながら、7月31日に発売したところ約3カ月でシリーズで1万本を売り上げる人気商品になった。

 ヒットの理由はスプーンの形状にある。上の写真にあるように、食べ物をすくう部分の先端がヘラ状になっている。カレーの具材である大きな肉やニンジンなどを食べやすい大きさにサクッと切るためだ。カレー皿に少し残ったご飯もすくい取りやすい。

 非対称にしたのは口に入れたスプーンを抜きやすくするため。「カレーライスがどのように食べられているのか。市場調査を繰り返して、顧客の様々な要望を徹底的に研究して商品化した」(山崎金属工業の山崎悦次社長)

ノーベル賞の晩餐会で採用

 山崎金属工業は1952年設立の金属洋食器の老舗だ。60年代から海外展開を加速し、商社を通さない直販体制を構築。米国や欧州などの市場を開拓してきた。海外の著名デザイナーと組むなどして、デザイン性の高い商品を開発し、ブランド力を高めてきた。

 90年代にはノーベル賞の晩餐会で使われる金属洋食器に採用された。伊勢神宮式年遷宮の記念セットや、九州旅客鉄道(JR九州)の高級寝台列車「ななつ星」の食堂車でも使われている。

 高級路線を歩んできた同社がなぜカレー専用スプーンの開発に乗り出したのか。きっかけは市場環境の変化だ。

 主力の販売先である欧米の高級百貨店は、インターネット通販に押されて販売が伸び悩む。とはいえ、中国やベトナムで大量かつ安価に生産しているメーカーに対抗するのは難しい。それでも「国産の高い品質にこだわり、コストがかかっても多品種少量、高付加価値の商品で勝負していく路線は変えたくなかった」(山崎社長)。

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