相場の“見える化”と定額制

 吉田社長は、相場情報を消費者にガラス張りにするには無料が必須だと考えた。ただしそれではビジネスにならない。一方、手数料の定額制を採用したら、利益率は低くなる。手数料が3%+6万円が当たり前なので、それよりも安く提供している業者は消費者が不安を覚えやすいという側面もあった。いずれもビジネス面では不利だ。

 ブレークスルーは、この両者を組み合わせることにあった。

 相場情報を無料で提供することで、ウェブサイト上での集客を図る。サイトを訪れる消費者は情報感度が高く、既存の不動産業界の慣習に疑問を持っているはずだ。ならば、こうした消費者には手数料定額制という仕組みも刺さると考えた。

 まずは物件情報を人力で集めてデータベースを一から作った。IT(情報技術)を使ってウェブ上に散らばる売買価格を自動で集め、それぞれのマンションにひも付けるシステムを構築。過去の取引状況や周囲のマンションの売却価格などから、独自の計算式を使って現在の相場をはじき出す。サイトから簡単に査定依頼を出せるようにもした。

 仲介手数料は定額で49万8000円。3000万円でマンションを売却した場合、従来ならば3%+6万円で96万円だから、約半額だ。

 さらに、会員登録して自分の専用ページを作れば、チャット形式の相談に加え、オンラインで媒介契約もできるようにもした。法律で定められていないにもかかわらず、慣習では媒介契約時には対面でなつ印するのが通例だった。

 サービス開始は2015年8月。サイト訪問者数はうなぎのぼりで増え、今年11月は月間10万人を超えた。専用ページを持てる無料会員は1万人まで増えた。対面せずに媒介契約ができるため、海外在住で国内のマンションを売却したい人からの問い合わせも多い。2017年3月期の売上高は1億円を見込んでいる。

会員数が急増している
●会員登録数推移

 同社の事業には、営業費用がほとんどかからないという長所がある。マンションの売り手に対する営業はポスティングなどの広告が基本。1件の売却相談を得るのに5万円ほど掛かるとされる。店舗の固定費もばかにならない。

 マンションマーケットは一切広告費を使っていない。集客はすべて相場情報サイトから。ウェブ上でほとんどの相談を受け付け店舗も持たない。「コストはエンジニアの人件費くらい」と吉田社長は言う。取引件数が増えても固定費が変わらないため、この長所は今後、同社のより強い武器になる。

 最近では他社も相場情報サイトの運営を始めたが、そこで開示される情報は限定的だ。既存の仲介業者にとって、相場情報は明かしたくない聖域であり、仲介業者からの広告料で収益を組み立てる業者にとって、すべてをガラス張りにするのは容易ではない。

 ただし、マンションマーケットには課題もある。無料の相場情報は全国規模だが、カギの受け渡しなどが必要なので仲介業務は東京23区の中古マンション限定。仲介業務の全国展開は、店舗を持たないローコスト運営という強みを損ないかねない。

 吉田社長は「地方の仲介業者とのフランチャイズ契約もあり得る」と今後の構想を明かす。業界の慣例を打ち破ったマンションマーケットの勢いは、東京23区から徐々に全国へと広がりそうだ。

(日経ビジネス2016年11月28日号より転載)