「トマトの会社から、野菜の会社に」──。そんなスローガンを掲げたカゴメの業績が好調だ。トマト関連商品と野菜飲料に次ぐ第3の柱として、商品特性が異なる2つのスムージーをヒットさせた。度重なる失敗にもめげずヒット商品に育て上げた背景には、「待ち」から「先取り」への経営改革があった。

(日経ビジネス2017年10月30日号より転載)

「GREENS」と「野菜生活100 Smoothie」などスムージーの売り場提案を始めた(横浜市金沢区のアピタ金沢文庫店) (写真=陶山 勉)
「GREENS」と「野菜生活100 Smoothie」などスムージーの売り場提案を始めた(横浜市金沢区のアピタ金沢文庫店) (写真=陶山 勉)

 「やっと東海エリアでも通常販売されるようになった!」「まもなく関西でも販売される。毎日でも飲みたい」──。

 2017年9月下旬、SNS(交流サイト)にはカゴメのスムージー「GREENS(グリーンズ)」についての書き込みが急増した。これまで販売地域は関東を中心とする1都9県だけだったが、関西と東海、北陸へと広がったからだ。原料は野菜と果実だけという無添加で、賞味期間は22日と短く新鮮さにこだわった。価格は198円前後(税抜き)と安くはない。それでも、消費者ニーズを的確に捉えることに成功した。

 だが、グリーンズをヒットさせるまでには、約3年の歳月が必要だった。開発が始まったのは2014年春。「フレッシュなジュースをつくる」という号令の下に、カゴメでは珍しい社内公募で開発メンバーが集められた。

 当時、野菜や果物を手軽に摂取できるスムージーや野菜ジュースの専門店が人気で、自宅でもスムージーを楽しめるジューサーが売れていた。そこでカゴメは、生野菜を加工した飲料の開発を目指した。

 マーケティング本部長を務める小林寛久常務執行役員は「とんがった商品を作ろうと、あえて飲みやすい商品はNGと言った」と振り返る。「とんがった」商品にこだわった理由は後述するが、そのイメージが裏目に出た。グリーンズの販売は大失敗から始まった。

7割が国内加工食品
●2016年度の連結売上高の内訳
<span class="pkL">7割が国内加工食品</span><br><span class="pk"><small>●2016年度の連結売上高の内訳</small></span>
注:2017年度は予想、農事業を除く国内事業の売上高を使用、14年度は決算期変更のため9カ月間の決算
国内加工食品事業は回復を始めた
●カゴメの国内加工食品事業の売上高の推移
<span class="pkL">国内加工食品事業は回復を始めた</span><br><span class="pk"><small>●カゴメの国内加工食品事業の売上高の推移</small></span>
注:2017年度は予想、農事業を除く国内事業の売上高を使用、14年度は決算期変更のため9カ月間の決算

 15年9月に1都3県のコンビニエンスストアで発売した最初の商品は、賞味期間はわずか約2週間。新鮮さにこだわったからこその短さだった。だが、当初は注目を集めたものの、生野菜特有の青臭さが強く、「おいしくない」という評判が瞬く間に広がっていった。

 3カ月後、売り上げはピーク時の10分の1に落ち込み、売り場では「20%オフ」という値引きシールが貼られた在庫が数多く並んだ。賞味期間が短いために、売れないとすぐに見切り品にされた。あまりの落ち込みに、確保していた原料でロスが出るほどだった。

 だが、カゴメは諦めなかった。消費者がスムージーや野菜ジュースに求める飲み応えや、どういった点に鮮度を感じるかを改めて分析。シャキシャキとした歯応えが楽しめるように、製造方法を見直して大きさが異なる野菜の粒が残るようにした。原料のほうれん草は、臭いが少ない品種に切り替えた。賞味期間も約1週間長くした。従来、リニューアルの頻度は1年に1度程度だったが、グリーンズは2年で7度も実施。「格段に消費者の嗜好に対応するスピードが上がった」と寺田直行社長は振り返る。

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