消費者が飽きやすく競争も激しい外食業界でも10期連続で増益を達成。「焼肉きんぐ」で食べ放題でありながらテーブルサービスを重視した独自のモデルを確立した。人手不足の中で、離職率を低く抑えて好調な業績を支えている。
2011年に社長に就任した加治幸夫氏は、創業家の小林佳雄会長と二人三脚で業績を伸ばしてきた(写真=陶山 勉)
「お席で注文 食べ放題」──。東京都足立区の国道4号線沿いの焼肉店。巨大な看板やのぼりに、分かりやすく自社の特徴を打ち出す。最近は外食業界でビュッフェ形式の食べ放題店が目立つが、「焼肉きんぐ」ではテーブルまで運ぶサービスを売り物にしている。足立区の店は週末の夕刻、ファミリー客を中心に20組以上が順番を待つほどのにぎわいだ。
メニューは食べ放題のコースが価格別に3通りある。最も安価な2680円(税抜き)のコースでも、「カルビ」や「ハラミ」といった肉のほか、ビビンバやデザートなど56品目から選べる。
100分の時間制だが、注文した食材が次々に届けられるため、入店から30分もすれば満腹になって制限時間よりも前に帰る客も少なくない。
運営する物語コーポレーションは2015年6月期まで、10期連続で増収増益を達成した。2016年6月期も売上高が387億8600万円で、営業利益は25億9000万円と増収増益を見込む。本社は愛知県豊橋市で、中部地域を中心としながら店舗を全国に広げている。立地は郊外の幹線道路沿いが中心だ。
収益性高い「食べ放題」のモデルを確立して成長
●売上高と営業利益の推移
注:2015年6月期までは単体
「各エリアで交通量が多い一等地を選び、広い商圏から食べに来てもらうことを目指してきた」と加治幸夫・社長兼COO(最高執行責任者)は話す。
着席の食べ放題に特化
物語コーポレーションが業績を伸ばしたのは、2006年から始めた焼肉きんぐの成功が大きい。
もともとファミリーが利用する焼肉店チェーンでは、安楽亭の「焼肉レストラン安楽亭」やレインズインターナショナルの「牛角」が有力だ。
焼肉きんぐは、こうした競合と違いを打ち出すため「食べ放題」を前面に押し出した業態としてスタートした。
それまでも同社は焼肉店や和食店を展開していたが、「食べ放題」を明確な特徴として打ち出してはいなかった。
食べ放題店は外食業界で、しゃぶしゃぶからピザ店まで幅広く人気があるが、顧客が食べたい分を取りに行くビュッフェ形式が目立つ。これに対して焼肉きんぐでは顧客は席を立つ必要がない。顧客も楽だが、店側にとっては食材を素早く届けることで、顧客が早く満腹になり座席の回転率が高まるという。結果として売り上げが増えるメリットもある。
主力業態の「焼肉きんぐ」では食材を席まで届ける食べ放題で、ファミリー客に好評だ
オーダーから数分で食材を提供することを店舗運営のマニュアルに盛り込み、素早いサービスにこだわる。このため無理な効率化は追求しない。従業員が多くても売り上げが増えれば人件費の比率は抑えられるという考え方だ。「売り上げと利益の両方をきちんと取れるフォーマットを確立できたことが、業績に結び付いた」と加治社長は話す。
過去には様々な試行錯誤があった。焼肉きんぐを展開し始めた当初はスタッフの配置が多すぎて赤字になるなど収益が不安定な店が出てきた。そこで、全店で導入したのがオーダー用のタッチパネルだ。注文に人員を割かなくてよく、提供のスピードも上がった。
かつて7割台後半だったFLコスト(原材料費と人件費の合計が売り上げに占める割合)は、現在は6割台前半にまで下がっている。
その後も独自の店舗運営のスタイルを突き詰めている。数年前からは、飲み放題のドリンクメニューについても、顧客が取りに行くドリンクバー形式から、席に届ける形式に変えた。
他の外食企業同様に原材料高という逆風もある。一部の食材を入れ替えるなどの工夫で対応してきたが、2014年11月と2015年7月には値上げせざるを得なかった。消費者への影響をできるだけ抑えるため、注文が最も多い中間の2980円(税抜き)のコースは変えず、高価格と安値のコースで実施した。
焼肉きんぐに依存しない収益構造への転換も急ぐ。ラーメン専門店の「丸源ラーメン」やお好み焼き業態「お好み焼本舗」などの10業態で10月末時点、国内に340店舗、海外に5店舗を持つ。10年前には焼き肉業態が売上高の9割を占めたが、今では6~7割だ。
人材育成を重視し出店急がず
物語コーポレーションはここ数年、年間約40店を出店してきた。今後3年間も同様のペースで戦略を描く。加治社長は「急速な出店はせず、人材をしっかり育てて拡大していきたい」と話す。
いちよし経済研究所の鮫島誠一郎・主席研究員は「年間離職率が3割と言われる業界で、物語コーポレーションでは11%前後と低く、評価できる」と話す。離職率が低い背景には、店舗の活性化策を考えさせるなど現場の社員に権限を与える社風がある。物語コーポレーションという社名には、創業家の小林佳雄・会長兼CEO(最高経営責任者)の思いが込められている。「社員一人ひとりが自分で意思決定し行動することで『自分物語』を作ってほしい」というものだ。こうした企業理念を浸透させることに日常的に力を入れており、社員のモチベーションの向上につながっているようだ。
(日経ビジネス2015年11月16日号より転載)
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