280円均一を売り物に快進撃を続けてきた居酒屋チェーン大手の鳥貴族。人件費、食材費などコスト増を受けてついに10月、値上げに踏み切った。株式市場などは好感しているが、急成長のひずみも表れている。

JR中央線の武蔵境駅(東京都武蔵野市)北口。10月27日金曜日の夜9時過ぎ、雑居ビルの2階にある鳥貴族の入り口では、10人ほどが順番待ちの列をつくっていた。

食べ物やお酒を280円均一(税別、以下同)で提供してきた鳥貴族は、10月から298円に値上げしたばかり。同じビルの4~5階には、鳥貴族と同様の焼き鳥居酒屋チェーン「豊後高田どり酒場」がある。こちらは280円均一を維持している。
それでも行列待ちをしてまで鳥貴族を選ぶのはなぜか。友人2人と来店した22歳の男性は「よく利用しているので安心できる。この程度の値上げなら、あえてほかの店に替える気持ちにはならない」と話した。
「和民」など総合的なメニューの居酒屋が苦戦する中で、鳥貴族が成長を続けることができたのは、焼き鳥という「専門性」を巧みに打ち出したことと、28年間維持してきた280円均一という安さがあったからだ。それだけに、約6.4%値上げして「298円均一」にする方針を8月28日に発表すると、業界の内外で大きな話題を呼んだ。
大倉忠司社長は価格見直しの理由について「食材費の高騰、アルバイト時給や求人コストの増加、今年6月に施行された改正酒税法に伴う酒類の仕入れ値上昇」などを挙げる。
株価3000円台に上昇
●鳥貴族の株価(終値)の推移

同社は今回の値上げは、今年10月から2018年7月までの既存店売上高を3%程度押し下げる影響があると試算している。10月は台風が相次ぐなど天候不順で経営環境は厳しい。ただ値上げ発表後から、株式市場は同社の利益拡大を期待してプラスに反応している。値上げを発表した8月28日の終値は、前営業日比で8%以上高い2815円まで上昇した。さらに9月13日には18年7月期の業績が大きく伸びる予想を発表し、翌日の株価が同約15%高の3075円へと跳ね上がった。その後も3000円前後で推移している。
競争の激しい居酒屋業界で値上げを決断できるのは、集客力が簡単には落ちないという自信の表れである、と市場は受け止めた。低価格居酒屋の「勝ち組」である鳥貴族の値上げは、政府が目指す「脱デフレ」の兆しであるという論調も目立った。
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