日産自動車系列で最大の部品メーカーという立場を離れ、米投資ファンド傘下で再出発を図る。最大の課題は日産以外の取引先の開拓。自動車メーカーに対する新商品の提案力に磨きをかける。「独立系」の強みをどう引き出すか。激変する部品業界で活路を探る。

(日経ビジネス2017年11月20日号より転載)

栃木県佐野市の実験研究センター内の風洞実験施設では、EV向けの新型空調の開発が進められている(写真=今井 雅文)
栃木県佐野市の実験研究センター内の風洞実験施設では、EV向けの新型空調の開発が進められている(写真=今井 雅文)

 たくさんのライトが煌々と輝いていた。ここは栃木県佐野市にあるカルソニックカンセイの実験研究センター内の風洞実験施設。人工的に風を作るだけでなく、天井に備え付けた無数のライトの明るさを調整することで、室内の温度を自在に変える。その幅はセ氏マイナス40度から同55度。四方力・同センター長は「世界中のあらゆる地域の天候を再現できる」と強調する。台上試験機の上でクルマを走らせながら、過酷な環境下でのクルマの性能を調べるのに使う。

 そんな自慢の施設で今、新製品の開発が進んでいる。EV(電気自動車)用の空調システムだ。

 EVではガソリン車と同じエアコンは使えない。エンジンの廃熱を利用できないため、暖房するにはヒーターを積み込む必要があるからだ。電池で駆動するEVの航続距離を伸ばすために、消費電力をできるだけ小さくすることも求められる。小さくて高効率の空調システムが欠かせない。

EV向け電子部品やコックピットモジュールが成長の柱に
●カルソニックカンセイの製品群
EV向け電子部品やコックピットモジュールが成長の柱に<br />●カルソニックカンセイの製品群
(出所:カルソニックカンセイ)
[画像のクリックで拡大表示]

 だが、カルソニックカンセイはそれだけでは満足しない。目標は、今のガソリン車の車台(プラットホーム)をそのままEVに転用できるようにすること。簡単に言えば、エンジンを置いていたスペースに、モーターや制御装置、それに空調システムを収容できるようにするのだ。

 開発を担当するサーマルシステム基本開発室の畠山淳・エキスパートエンジニアは言う。「EV専用の車台を開発する投資余力はない。そう考える自動車メーカーは少なくない」。立ち上がったばかりのEV市場で、どれだけ売れるかも分からない。できることなら開発費の負担が重いEV専用車台を一から作ることは避けたい。自動車メーカーのそんなニーズに目をつけた。

 今年3月に米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)傘下に入ったカルソニックカンセイ。長く、日産自動車系列の最大部品メーカーとして君臨してきた分、これまでの開発テーマは日産からの要望にどう応えるかに重点が置かれていた。だが、今は違う。「HowではなくWhatから考える。それが何よりも大事になる」。商品企画を担当する佐藤和浩常務は、まずは顧客ニーズが何かをつかみ、新しい商品を提案できるようにする大切さを社内で訴える。

次ページ 「手の内」は誰にでも見せる