さらに、ソニーFHの金融事業とシナジーを見込める新たな事業が、ソニー本体の子会社として誕生した。それが、2014年8月に営業を開始し、話題となったソニー不動産だ。

 「既存の業界慣習にとらわれず、顧客に新しい価値や選択肢を提供するためにソニー不動産を立ち上げた。ソニー生命などと理念は同じなので、ぜひ連携させてください」。2014年春、東京・青山一丁目にあるソニーFH本社の社長室で、ソニー不動産の西山和良社長は熱弁を振るった。

 この西山社長の提案を契機に、ソニー生命のライフプランナーへ寄せられた不動産関連の相談を、ソニー不動産へ取り次ぐ施策も一部エリアで実験的に開始。「家をうまく売れず困っていた顧客を、ソニー生命がソニー不動産に紹介し、売却に成功した実績も出始めた」(ソニー不動産の西山社長)。「人の半生を金融面でカバーする」というソニーFHの事業ポートフォリオに、不動産も着実に加わりつつある。

金融部門に残ったDNA

 今やソニーの平井一夫・社長兼CEO(最高経営責任者)も「エレキと並び、エンターテインメントや金融もソニーグループの本業」と断言するようになった。「生保のライフプランナーは、ソニーの看板を背負って直接、顧客に接することができる貴重な存在。金融事業は利益面での貢献だけではなく、ブランド力の向上で他の事業とのシナジーが大きい」と平井社長は話す。

 近年は、一般消費者に驚きを与えるヒット商品を生み出せず低迷し続けたソニー。エレキ事業の相次ぐリストラで業績は回復しているが、新たな成長の柱は映画や音楽、イメージセンサーといった“黒子的事業”が中心だ。

 「顧客の声に耳を傾ける力」と「既存の慣習を突き破る力」により、斬新な金融商品を生み出し、顧客の評価を得ているソニーFHは、今のソニーグループの中では独特な存在。革新性のある商品で一般消費者を魅了するという「創業時のソニーのDNA」を最も色濃く引き継いでいるのは、実はソニーFHなのかもしれない。

【INTERVIEW】
井原勝美ソニーフィナンシャルホールディングス社長に聞く

国内生命保険は成長市場
(写真=北山 宏一)

 まず生保市場に参入して約35年かけ、損保、銀行と業容を広げてきた。名だたる大手企業がひしめく金融業界で後発参入でも戦えるように、“小粒でもぴりりと辛い”特徴あるビジネスモデルを作り続けてきた。それが顧客から支持されたからこそ、今のソニーFHの姿がある。

 第4の柱とする介護事業は、グループの事業ボリュームからするとまだ小さい。が、小さく生んで、大きく育てるべき期待の事業だと考えている。

 最近、大手国内生保が海外の生保会社を買収する動きが加速している。これを見て「やはり国内生保市場は成熟していて、少子高齢化だからもう海外で成長するしかないんだろう」と思われているに違いない。だが我々は、国内生保市場は成熟しているとは考えておらず、まだ伸びる成長市場だと考えている。

 実際、この10年間の様々なデータを見ても、個人が契約している保険数は増えており、保険料収入も増えている。

 保険分野は、技術の進化や世の中の変化に合わせて、新しい商品を作って提供していける業界。例えば、がん保険では、新しい治療方法が次々に出てきて、そのような高度な治療に対応した保険が新たに必要になり、これまでにない市場が生まれる。

 働く女性が増えれば、従来の女性向け保険とは異なる保険商品も必要になるだろう。このように、変化を捉えて顧客ニーズを顕在化させるような商品開発をしていけば、まだ国内の保険市場は大きくなる。

 海外市場への進出については否定するものではなく、長期的な視野で考えている。市場環境や規制などが国ごとに異なり、買収などで拙速に海外進出をしても、現在のソニーFHの人員リソースではマネジメントしきれるとは思えないからだ。今は、海外の保険会社に研修のため幹部を送り込むなど、時間をかけて海外事業を担当できる人材を育てている段階だ。

 基本的には、主力の生保を中心に事業を強化していく方針に変わりはないが、ソニーグループらしく、常に新しい分野への挑戦はやめない。ソニーFHの経営リソースや経験を生かせるような新しい事業ができると考えたら、斬新なビジネスモデルとサービス品質を武器に、躊躇なく参入していくつもりだ。IT(情報技術)の新しいテクノロジーもいち早く取り込んでいく。(談)

(日経ビジネス2015年11月2日号より転載)