販売の現場を大切にするという田島氏の姿勢は、外資系ブランドのトップだった時代から変わらない。「得意先との商談会に顔を出し、特設会場のレイアウトも『こっちの方がいい』と、洋服の束を抱えながら変えていた。TASAKIでもきっと同じようなことをしていたからうまくいったのだと思う」。古くから付き合いのある、大丸松坂屋百貨店の好本達也社長はこう評する。

 マーケティングの仕方でも、外資系ブランドで培った経験が生きた。2014年5月に開かれた60周年パーティーは、寺島しのぶや玉木宏など、有名人を集めて大々的に開かれた。宝飾業界では極めて異例の華やかなイベントに、三越伊勢丹ホールディングスの大西洋社長も驚いたという。

 芸能人やタレントに商品を身に着けてもらい、ファッション感度の高い層の関心を集める。広告宣伝以外でもブランド価値の向上を図った。

 タクーン氏のコレクションを発売してから、2年ほどは売り上げも大きくは伸びなかった。しかし、これも田島社長には織り込み済み。過去の経験から、ブランドのイメージはすぐに変わるものではないと知っていたからだ。社長を引き受けた当初から、消費者に浸透し、売り上げが伸びるには最低でも5~6年は必要だとみていた。

 MBKの池田氏は、「正直、最初の1~2年は数字が上がらず、やきもきした」と振り返るが、ファンドも当初の約束通り、辛抱強く田島社長の戦略を信じ続けた。

 2008年の出資から5年たった2013年度、TASAKIの営業利益はプラスに転じる。そして今、投下した広告宣伝費や商品開発費を回収するステージにようやく差し掛かり始めている。

 2015年8月には時計の販売も開始。ギフトやレザーグッズのアイテム数も増えている。真珠だけではない、ラグジュアリーブランドに生まれ変わる一歩を踏み出した。

ブランド再生の「好循環」を作り出す
●TASAKIの成長戦略
ブランド再生の「好循環」を作り出す<br/>●TASAKIの成長戦略

 出資をしたMBKも、その役目を終える時が来た。出資から7年たった2015年6月、MBKは優先株350万株を普通株1400万株に転換し、その一部を市場で売却すると発表した。普通株への転換により、TASAKIの発行済み株式数は5倍弱に増える。そのまま放置すれば、株価への影響は避けられなかった。

 そこで、TASAKIは100億円を借り入れ、その資金を使って440万株の自社株買いを実施した。資本を減らす一方で、負債を増やし、ROE(自己資本利益率)の向上を狙った。

 自社株買いを実施したものの、転換前に比べて流通する株式の数は3.5倍に膨らんでいる。EPS(1株当たりの利益)は大幅に減少したものの、6~8月の株価下落率は5割にとどまった。今後についても、「利益成長が重要。それでカバーしていけばいい」と、TASAKIの小川崇亨・執行役副社長は説明する。

「当たり前」が難しい

 TASAKIのこれまでの復活劇は、ブランド再生の王道を、教科書通りに実践したとも言える。実際、最近の取締役会では、こんな言葉が交わされているという。

 「何でこんな当たり前のことを自分たちでできなかったのだろうか」

 だが、企業再生の現場ではしがらみも多く、既存の経営陣だけでは当たり前のことを当たり前にやるのが難しい。TASAKIは、「良いものを作れば売れる」という、日本企業の多くが陥りがちな盲信や、過去の成功体験から抜け出せなかった。

 ファンドや田島氏という外部の力を活用したショック療法があったからこそ、復活を遂げることができた。自力では変わりたくても変われない、日本企業に対する一つのケーススタディーであることは間違いない。

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