戦略転換に際し、良品計画を赤字からV字回復させ、中国市場開拓でも実績を残した前会長の松井忠三氏を顧問に迎えた。エレコムが1号店として検討していた物件の家賃が相場の5倍だったことが発覚するなど、当初計画の「粗」を松井氏から指摘され、再度、出店計画を見直し中だ。それでも葉田社長は「やばいときに、不思議にアドバイスしてくれる人が現れる。成長できて楽しい」とめげる様子はない。

今年6月、香港に新規オープンした「エレコムショップ」の外観
今年6月、香港に新規オープンした「エレコムショップ」の外観

 この失敗を恐れぬ起業家精神は、エレコム全体に流れる通奏低音と言っていい。組織の末端にまで浸透し、それがまたエレコムを成長させる原動力となっている。商品開発部の福良次長は「うちはわりと失敗が許される会社。失敗しても生煮えでもいいから、とにかくアイデアを出せ、というプレッシャーの方が強い」と話す。

 9月中旬、開発部門の中堅社員を対象に行った研修。そこで講師を務めた人材コンサルティング会社、サイコム・ブレインズの小西功二氏は、エレコム社員をこう評する。

 「一般的に広く他社と比較して、一人ひとりに起業家精神が根付いているという印象。リスクを恐れずに積極的にアイデアや意見を出してくる」

 エレコムが誇る80人の「個人商店」の勢いは増すばかり。視野をグループ企業に広げれば好調の種はまだある。

 2004年に買収したPC周辺機器のロジテック、2011年に関連会社となった産業機器向けストレージのハギワラソリューションズ、そして、昨年5月に関連会社となった産業機器向けマザーボードなどを手掛ける日本データシステム。この3社が業務用PCパーツ・周辺機器を手掛けており、モノのインターネット化、すなわち「IoT」を追い風に業績を伸ばしている。この業務用分野を中心に、さらなるM&A(合併・買収)も視野に入れる。「1000億円でも2000億円でも借りられる健全な状態。どんどん続ける」(葉田社長)。

第2の創業期、もう一度磨く

 業容はどこまで拡大するのだろうか。エレコムをどう進化させ、どんな企業体になるのか。そう聞くと、葉田社長は「それを今、もう一回リセットして考えているところ」と率直に答えた。

 「エレコムは今、大きな転換期にあると思っていて、『第2の創業』と言ってもいい。地球の隅々まで、ライフスタイルを変えるエレコムのプロダクトを広げていきたいという夢はありますよ。ただ、残念ながら今はまだ、その力がない。もう一度、コアコンピタンスみたいなものを磨き、探りながら世界中の人々をハッピーにしていく」

 今年62歳になる葉田社長の英気は、創業間もない勢いあるベンチャーのそれに引けを取らない。

【INTERVIEW】
葉田順治社長に聞く

とにかく不安でしょうがない

 成功していますね、と言われても、は?全然成功したなんて思っていないし、まだまだ全然やれてないという意識しかない。

(写真=山田 哲也)
(写真=山田 哲也)

 私は、何とか業界という言葉が嫌いで、パソコン業界なんて、周辺機器の事業を始めた当初から、いつ終わるのかなと見ていた。スマートフォン業界というのも、ぼちぼち終わるのかなと思って見ています。

 加えて、この業界って最悪なことに、超デフレ。国内市場は人口減少に向かい、海外はまだ未開拓。ということで、とにかく不安でしょうがない。やらなければならないことは、まだまだたくさんある。

 この強烈な危機感の背景には、過去のトラウマもあるかもしれません。大学を出て、28歳くらいの時、トンネル掘削用の工事用材木で成功していた家業が、新工法の登場でつぶれかけたことがある。だから、需要やトレンドなんていつでも変化するし、なくなってしまう。世の中なんて、いつどうなるか分からないんですよ。

 ただ、我々は資本主義ならぬ、「モノ本主義」でここまでやってきた。「IoT」や人工知能の普及で人間の仕事がなくなると言っても、要するにコンピューティングの新しい形なわけで、パソコン産業は衰退するかもしれないけれど、インダストリーPCやその周辺において、モノ作りの需要は必ず増えていく。

ヘルスケア業界に革新を

 だから、ストレージや各種ツールなど産業機器向け事業にはものすごく力を入れているところで、既にグループのハギワラソリューションズを中心に70億円くらいの売上高があります。

 あとはやっぱり、ヘルスケア。キーワードは「業際の展開」。既存事業の「際」を徐々に広げ、しゃくとり虫のように会社を成長させる。ヘルスケアと言っても、家電量販店など流通チャネルは大きく違わないし、商品も既存事業と同じくらいの大きさだから既存の物流に乗せられる。大きな投資は必要ないんですね。

 この業界に入ってみると、がちがちに固まっていて、イノベーションがあまり起きていないと感じている。そこを我々の機器で打破していきたい。医療・薬事法も絡み、めちゃくちゃ難しくて面倒くさい。しかし、こういうのを僕は好むんですね。

 病気や何らかの障害に至る前の段階でも、マッサージとか、メンタルの部分のリラクセーションとか、できることがいろいろある。人はどうせ死ぬわけですが、それまでの間、健常に、ちゃんと気持ちよく過ごせるようなものを提供していきたい。これからは、そういった、もうちょっと広い範囲で社会に貢献していきたいなと思っています。(談)