マウスの「握り心地」を追求

 前出の島村氏には彼の代名詞と言っていい商品シリーズがある。きょう体に「顔マーク」をあしらったシリーズだ。USBハブのデザインは無機質な黒や白一色が定番だったが、2009年、顔マークを描いた商品を販売すると、黒や白を押しのけ、シリーズで最も売れるヒットとなった。

 以降、顔マークは、マウス、充電用ケーブル、AC充電器、イヤホンなど40以上の製品に展開。2014年9月に発売した顔マークのカードリーダーライターは同カテゴリーにおいて現在、日本で2番目に売れている。

 島村氏は発端となった2009年当時を「ほぼ勝手にやったに近い」と述懐する。「売れるのは黒白シルバー。ほかは出すなと言われていた。でも、経営陣に気づかれないように顔マークのものもしのばせたら、それが結構、売れちゃいまして(笑)」。

 自らの趣味に近いことをひたすら追求し、結果を出した者もいる。

 今年で新卒7年目。商品開発部でチームリーダーを務める平田清隆氏は、大学院で半導体を学びながら、「マウスが好き」でエレコムに入社した。

 マウスは新規開発の余地がほとんどない成熟商品。平田氏いわく「新しい機能はどんどん減り、高い金型投資をしてまで新しいデザインを提案する会社もなかった」。

 だが、平田氏は「握り心地を極めたい」という思いを貫いた。2013年に発売したマウス「EX-G」シリーズだ。「日本人の手になじむ」というのが売りで、親指を置く部分の形状などにこだわった。有線で2000円弱、無線で3000円弱と、マウスとしては中価格帯だが、これが飛ぶように売れた。

 マウス市場全体が逓減する中、EX-Gは一時、市場を再び右肩上がりとし、販売数はシリーズ累計で130万台を超えた。直近でも同シリーズは金額ベースでエレコム製マウスの約30%、国内マウス市場の13%を占めている。

●開発現場発の主なヒット商品
●開発現場発の主なヒット商品
①握り心地を追求したマウス「EX-G」シリーズ
②「顔マーク」付きのカードリーダーライター

 昨年は、小型のモバイルPC向けマウスを開発、11月に発売した。ペンのように、使う時にキャップを外して逆側に付ける独特なデザイン。社内の移動時などに、モバイルPCのディスプレー部分にかけられるよう、フックも付けた。社内プレゼンでは「デザイン的にあり得ない」と散々な評価。それでも、やりたいと押し通し、4万台ほど出荷。「そこそこのヒット」となった。

 決して、独り善がりの開発をしているわけではない。平田氏の自己満足度は「売れたかどうか」による。

 「エレコムの開発部門では、売れた、というのが一番刺激的に感じる人間が多い。出したい商品を出して、自分の商品にレビューがついて、評価されるとすごくうれしい。売れなくても、グッドデザイン賞をもらえれば満足するのは新人くらいでしょうね(笑)。ここでは、取れて当たり前」

 責任と引き換えに「自由」を手に入れ、達成時の「喜び」を知っているからこそ、過酷な環境に耐え、高速で開発し続けることができるエレコム開発陣。その喜びは、開発陣を新たな分野へと突き進ませている。

 「意外といい音、エレコム」。昨年11月、エレコムはそんなキャッチコピーとともに「ハイレゾ」オーディオ市場へ新規参入した。ハイレゾとは、CDの音質を大きく超える新たなオーディオ規格で、昨秋にソニーが投入したスマホ「Xperia Z3」など対応した再生機器や楽曲も普及しつつある。

 エレコムはこのハイレゾに対応したイヤホンを開発。高級イヤホン市場の勢力図を塗り替えようとしている。カギはその価格帯だ。

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