働く人や働き方、仕事内容の多様化が進むなか、企業は社員それぞれの事情に合わせて活躍できる場を用意し、同時に一人ひとりの能力を戦略的に伸ばしていかなければならない。

日本は他国と比べやる気が低い
●主な国の社員の会社への信頼や仕事への熱意(=エンゲージメント)(2015年)
出所:エーオンヒューイット

 日本企業がこの課題の克服に成功しているとは言えない。90カ国・地域で人事コンサルティングなどを手掛ける英エーオンヒューイットが、日本企業100社の10万人を対象に2015年に実施した調査でそれが明らかとなった。会社への信頼や仕事に対するモチベーションの度合い(社員エンゲージメント)が、他の主要国企業に比べて低かったのだ。

 「人事制度と企業の目標との整合性が取れていなかったり、社員のキャリアパスを明確に示せていないことが原因ではないか」とエーオンヒューイットジャパンのヤン・ジィヨン・シニアコンサルタントは分析する。

 では、社員のモチベーションをどう高めていくか。研修システムに強みを持つ米コーナーストーンオンデマンドは、社員が活躍できそうな仕事を予測したり、どんなスキルを獲得すべきなのかを提案できるシステムを開発。日本企業に導入を促している。

 日本オラクルの「オラクルHCMクラウド」は社員のパフォーマンスを計測し、モチベーションが低下して離職する可能性がある社員を特定できるシステム。社員の給与、上司、部署、等級など、何をどう変えればどの程度までパフォーマンスが改善できるのかまで予測、分析できるのが強みだ。「分析できる項目はこれからもどんどん増やしていく」と津留崎厚徳部長は話す。

「人事データサイエンティスト」も

 米国を中心に、HRテックに対する投資額は増加の一途をたどる(下のグラフ)。国内でもテンプHDが10億円規模のHRテックへの投資ファンドを組成したと発表。国内外の有望な関連ベンチャーの投資・育成に動き出した。

投資規模は右肩上がりに
●HRテック関連企業の資金調達額の推移
出所:CB INSIGHTS

 テンプHDは昨年4月には社内に人事情報室を立ち上げ、データサイエンティストを配置。既に退職者を予測するモデルを実用化し、現在では最適な人材配置を提案するシステムの構築に挑んでいる。ベンチャーへの出資による技術獲得と、データサイエンティストによる社内データの活用を両輪に、HRテックを深掘りしていく戦略だ。

テンプHDでHRテックを推進する山崎涼子・人事情報室長(左)と小川翔平氏

 「HRテックは一時的な流行では終わらない。10年ほどかけて企業に浸透していくだろう」とファンドの加藤丈幸・代表パートナーはみる。

 HRテックが人事部門になくてはならなくなり、人事専門のデータサイエンティストを置く企業も増えるだろう。だが、どんなに最新のツールを導入しても、監視や管理強化だけが目的になれば社員が反発するだけ。

 HRテックを駆使し、いかに社員のモチベーションや組織全体の生産性を高めていくか。人事部門や経営者は、その巧拙を問われることになる。

(日経ビジネス2016年10月31日号より転載)