AIで社員の状況を把握

 採用から給与、勤怠、労務管理まで人事に関連する様々なデータが電子化され、クラウドに保存されるようになった。

 これら複雑なビッグデータをAIが分析することで、「これまで人事部門が把握していた情報では分からなかった社員の実情や能力が見えてくる」とERP(統合基幹業務システム)ソフト大手、ワークスアプリケーションズの松本耕喜マネジャーは話す。HRテックは人事部門の業務を効率化するのにとどまらず、より高い精度でその仕事を肩代わりする存在にもなりつつある。

 ワークスアプリケーションズが昨年提供を始めたAI型人事システム「HUE(ヒュー)」の特徴は、社員に関する多様な情報を収集し、分析すること。文書作成から表計算、スケジュール、メール、ファイル管理まで、社員が使うあらゆるソフトを統合し、利用状況をモニタリングする。これを勤怠や給与、評価など既存の人事データと合わせて分析するのだ。

 社員がいつ、どこでどんな仕事をしており、負荷がどこまでかかっているのか、どんな成果を出しているのかがこれで見えてくる。例えば、メールの文章の中から「辛い」「疲れた」といった表現を検出し、勤怠データなどと突き合わせて社員のメンタルヘルスの状態を把握できる。社員間のコミュニケーションを分析して、組織内のキーパーソンが誰かを特定することまで可能だという。

ワークスアプリケーションズは米最大規模の展示会でHUEを紹介

 いち早くHUEの導入を決めたのが、5500人の教職員を抱える近畿大学だ。働き方や仕事の繁閑は教職員ごとに違う。「それぞれの教職員がどのように働いているのかをHUEを使って捉え、働き方改革に生かしたい」と同大人事部の井川信孝・課長代理は意気込む。

 思いもよらぬ情報が人事に活用できることも分かってきた。

 社内SNS(交流サイト)の開発を手掛けるトークノート(東京都港区)が注目したのは、サーバーに蓄積された社員のSNSでのやり取り。「(SNS上の)コミュニケーションの量やサイトへのアクセス頻度は社員の仕事へのモチベーションを示す『体調』のようなもの」(小池温男・代表取締役)。

 これを独自のアルゴリズムで解析し、普段よりもアクセス頻度が低下しているといった変化を捉えて当該社員の上司や管理職、経営者などに注意を促す。

 仕事上の悩みを打ち明けられずに抱え込んでしまう社員は多いが、上司が部下のささいな変化を捉えるのは難しい。「社内SNSでの振る舞いをモニターし、その変化を把握できれば、上司がフォローに回って話を聞ける。問題解決を手助けできるだろう」と小池代表は期待する。

 人事関連の情報を統合し、これを分析して人材配置に生かしたり、社員の能力を効率的に伸ばしたりする取り組みを「タレントマネジメント」と言う。

 これまでは主に社内のリーダーを育成するために取り組む企業が多かったが、近年は「社員一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮できる環境を作るためにタレントマネジメントが重視されるようになった」(リクルートキャリアの木塚敬介・執行役員)。