農業もイスラエルの十八番(おはこ)。農業向けにドローンを開発しているのがエアスコートだ。ドローンからのカメラ画像を使って作物の育成を管理するシステムは、日本でも実証実験が進んでいる。しかし、一般的なドローンは連続飛行時間が20分程度しかないため、広い農地では再充電が必要になる。

 同社のドローンは充電とクラウドサーバーへのデータ転送まで全て自動化する。「途中で一切人が介入する必要がない」(イタイ・ストラウスCEO)。

 ドローンはGPS(全地球測位システム)とカメラの画像解析で誤差2~3mmの着地が可能。充電中はドックに格納された別のドローンが飛び立ち、連続的に作業ができる。

 「TPP(環太平洋経済連携協定)の影響で、日本の農家は作業の効率化を模索しているはず。エアスコートのドローンは答えの一つになる」とストラウス氏は語る。

日本企業と提携探る
●イスラエルの注目スタートアップ企業
社名 設立/社員数/資本金 技術シーズ 求める日本のパートナー
センソリティ
SENSORITY
2015年/5人/非公表 光学式脈波センサーの技術を応用し、呼吸や脈拍などを監視カメラ映像から計測。深層学習AIで不審者を自動検出する 監視カメラ製造会社など警備関連企業で、政府や警察に強いコネクションを持つ会社と手を組みたい
ユームーヴ
Umoove
2012年/7人/380万ドル スマートフォンやタブレット端末で作動するアイトラッキング。アプリ「Umoove」でその機能を体感できる。脳震盪などの診断技術にも応用 自動車、ゲーム、カメラの関連企業と手を組み、一般消費者向けの製品を作りたい
ジェムセンス
gemsense
2015年/4人/60万ドル 小型9軸モーションセンサーと、連動する通信やVR技術。現在は家具メーカーと協力して「スマート椅子」を開発中 介護分野に強みを持つ企業と、転倒予防のウエアラブル端末を作りたい
エアスコート
Airscort
2014年/3人/自己資金のみ 自動充電、データ保存が可能なドローンとドック。赤外線を用いて作物の育成状況を観察する。ドックには耐候性もある 農場の精密管理にドローンを応用したい。日本の農業の省力化でニーズがあると期待
ザ・エレガント・モンキー
The Elegant Monkey
2014年/6人/非公表 SNSの開発・運用などを手掛けてきたが、ヘルスケア分野に参入。心理的ストレスの予測、解消のためのツールを開発中 村田製作所との提携が決定

イスラエル経産省が仲人役に

 日本企業がこうした有望なスタートアップ企業を見つけるにはどうすればいいか。まずはイスラエル経産省が提供する多国籍企業向けプログラムを活用するのが有利だ。要望に合う企業をイスラエル経産省が探し出し、提携が実現すればプロジェクト予算の半分を補助する。日本企業の登録も、3年前のゼロから現在はパナソニック、ヤンマー、NEC、富士通など8社に増えた。

 2年前にイスラエルの拠点を開設したサムライインキュベートの榊原健太郎CEOは「まずはイスラエルの起業家たちの文化を深く理解することが重要。コンサルタントなどに仲介させるのではなく、駐在者を置いてハッカソンやインキュベーターを立ち上げることが重要だ」と話す。

 歯に衣着せぬ物言いで、良くも悪くも失敗に頓着しないイスラエル人。一方、慎重すぎるが精緻なモノ作りを得意とする日本人。端から見れば凸凹の国民性だが、補完関係にあるのも確か。イスラエルと日本のコンビがIoT時代を席巻する日が来るか、今が分水嶺と言えそうだ。

最強エリート8200部隊
不可能はあり得ない

 イスラエル国防軍の徴兵で、優秀な学生が集まるのが諜報部隊。架空の言語で書かれた文章を5時間で翻訳させるなどその選抜方法もユニークだ。

 諜報部隊の中でもエリートとされるのが8200部隊だ。隊員は500人規模で、成績上位1%が配属されると言われる。8200出身者は高度なハッキング技術を体得し、5カ国語を流ちょうに操る人間も珍しくない。

 「求められるのは潜在能力。のみ込みの速さや変化へ適応する力を試される」。こう語るのは8200部隊に所属していたシャーリン・フィッシャー氏だ。

 徴兵機関の課程ももはや訓練とは言えない。いまだ解決策のない課題に学位も持たない18歳の若者が挑む。それも人命に直結する課題だ。8200のモットーは“Impossible is irrelevant(不可能はあり得ない)”だという。

 イスラエルでは「8200」という言葉自体がエリートの証しとして通用する。OBの中にはファイアウオールを開発したセキュリティー会社、チェック・ポイント・ソフトウエア・テクノロジーズのギル・シュエッドCEOら著名起業家が名を連ねる。

 8200というブランドは、こうしたOBの人脈をフルに使えることも意味するため、起業する際に出資を得やすいという利点もある。

(日経ビジネス2016年9月19日号より転載)