アラブとの摩擦に明るい兆し

 そしてテロ。6月にも繁華街の商業施設でパレスチナ人により4人が銃殺される事件が起きた。

2014年のテロによる死者数
出所:米START

 しかし日本の外務省によると、イスラエル国内のテロ死者数は減少傾向にある。米国のテロ研究機関STARTの統計では、ガザ地区との紛争が起きた2014年のテロ死者数は49人。この数字をどう判断するか。「自動ミサイル撃墜システム『アイアンドーム』のように、被害を軽減させる防衛策を張っている。実際に人が死ぬことは日本人が思うよりずっと少ない」(日本政府関係者)との声もある。

 米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)によると、イスラエル国債の格付けは8月末で「A+」評価。先進国の中では低いものの、日本と同格だ。

 国内のイスラエル人とアラブ人の摩擦にも明るい兆しが出てきている。

 イスラエルではアラブ人の子供も原則、ヘブライ語で授業を受ける。またイスラエルの重要なキャリアパスである徴兵にもアラブ人は参加しないため、就職や起業で不利になり、経済格差が生まれていた。そこで、イスラエル政府や民間のインキュベーターがアラブ人向けの補助金制度を新設するなど、成功を後押しする動きがある。

 スマートホーム用のセキュリティーシステムを開発しているミーンドライフの創業者の一人、ラミ・カワーリー氏もアラブ人だ。「アラブ人だからといって協力を拒む人はいなかった。ただ時間がかかるだけだ」。

 パレスチナ自治区からエルサレムなどのIT企業に通勤するパレスチナ人も増えているという。パレスチナはイスラエルの高度な技術を学ぶ目的があり、イスラエルの企業にとっても高騰する人件費を抑えられる利点がある。

生理学で不審者を自動検出

 ではイスラエルの有望なスタートアップ企業は、日本の市場や企業にどのような関心を持っているのか。

 監視カメラの映像から不審者を自動的に検出する技術を持つセンソリティ。諜報部隊や特殊部隊の出身者らが自身の従軍経験を生かして立ち上げた。同社の警備システムは、テルアビブのスタジアムや空港に導入されている。

センソリティの不審者自動検出システム。映像から対象者の心拍数や呼吸の状況まで読み取ることができる。右はディミトリー・ゴールデンバーグCEO

 日本で5月に開催された主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では、目や顔の微細な動きを読み取って不審者を検出するシステムを綜合警備保障(ALSOK)が使った。

 一方、センソリティはこうした「振る舞い検知」ではなく、心拍や呼吸数、血中の酸素飽和度などを映像から読み取り、対象者の緊張や興奮の度合いを推し量る点に特徴がある。400万画素以上の解像度であれば可能で、一度不審者に照準を定めると、複数のカメラが連動して自動追尾する機能も持つ。

 生理学的データを観察するため、空港で危険度の高い感染症患者を検知して入国を水際で止めることや、試合中のスポーツ選手の動きを解析するのにも応用が利く。

 オリンピックを4年後に控える日本では「間違いなくテロ対策のための需要がある」(ディミトリー・ゴールデンバーグCEO)。政府、警察に強いつながりを持つ警備関連企業との提携を探っているという。

 イエッツィー・ケンプンスキー氏が起業したユームーヴは、視線移動を検知する「アイトラッキング」をスマートフォンやタブレット向けに開発している。高解像度のカメラや赤外線の照射装置など、追加機器を一切必要としないのが強みだ。

市場化狙うコア技術
上:エアスコートのドローンと充電装置。長時間の連続作業が可能で、農業分野への参入を図る
下:ユームーヴのアイトラッキング。自動車の事故防止やゲームに応用できる

 現在は自身の技術をアピールするゲームアプリを提供している。これまで主に広告やウェブサイトの解析に使われていたアイトラッキングだが「スマホなどを使って、どこでも、誰でも使えるようになれば市場は広がる」(ケンプンスキー氏)。

 例えば、運転手の疲れ具合を検知して、警告を発することも可能だ。VR(仮想現実)ゲームや、一眼レフカメラなどへの付加機能として組み込むことも想定している。「自動車、ゲーム、カメラ。日本が世界でも強い分野だ。日本の長期間安定したビジネスモデルとイスラエルの技術を組み合わせてみたい」(ケンプンスキー氏)。

 モーションセンサーのジェムセンスは日本の介護市場に商機を見ている。同社の主力チップ「ジェム」は、XYZ軸の3方向について加速度、角速度、地磁気を検出する9軸センサーを積む。直径2cmにとどまるサイズは、競合相手と比べて4分の1。「高齢者のベルトや靴、どこにでも違和感なく入れられる」とアヴィ・ラビノヴィッチCEOは胸を張る。

 このジェムを使ってVRゲームを開発中だが、高齢者の転倒を検知・予測するシステムにも応用できると考えている。同社は、ハードウエアも含めて最終製品まで手掛け「すぐに試作品を提供できる。1年以内に市場化も可能だ」(ラビノヴィッチCEO)と対応の速さを強調する。