多様な外国人客が地方へ

 日本政府観光局(JNTO)によると、2015年の訪日外国人数は1973万人に達した。政府は「2020年に4000万人」という野心的な目標を掲げているが、今後の伸びは地方にかかっている。

 下の地図は都道府県別の外国人宿泊日数の伸びを示したものだ。赤い色の自治体ほど伸び率が高い。東京や大阪などの大都市圏に比べて、地方の方が伸び率が高いことが分かる。

●外国人延べ宿泊数の伸び(2015年)
●外国人延べ宿泊数の伸び(2015年)
出所:観光庁「宿泊旅行統計調査」
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 観光立国を目指す上で課題となるのは、外国語のできる人材が不足していること。とりわけ地方ではその傾向が強い。しかも、英語だけでは十分とは言えない。日本にやってくる人の国籍が多様化してきているからだ。

 下の円グラフで示した通り、中国・台湾・韓国だけでも半数を超え、ビザが緩和されたタイやベトナムからも旅行客が急増している。こうした非英語圏の国や地域からやってくる人の中には英語が不慣れな人も少なくない。

アジア圏の訪日客が大半を占める
アジア圏の訪日客が大半を占める
出所:観光庁「宿泊旅行統計調査」

 多様な外国人客が日本全国に押し寄せている現実を目の前に、言葉の壁をどう乗り越えるか。解決策となるのがIT(情報技術)の積極的な活用だ。冒頭の例のように、ネットにつながるIT機器を使えば、「おもてなし」のレベルを手軽に引き上げることができる。

 「通訳の機械があると分かると自信を持って接客できるし、外国からのお客様も安心してくれる」。名古屋テレビ塔でアテンダントを務める武藤翔衣さんはそう語る。武藤さんが頼るのはスマートフォンやタブレットで使う翻訳アプリ「VoiceTra(ボイストラ)」だ。総務省系の国立研究機関、情報通信研究機構(NICT)が開発した。

<b>名古屋テレビ塔では情報通信研究機構が開発した多言語翻訳アプリ「ボイストラ」が活躍。アテンダントの武藤さん(右)はスウェーデンから来たイリジンさんに付近の観光スポットを説明した</b>(写真=坂田 亮太郎)
名古屋テレビ塔では情報通信研究機構が開発した多言語翻訳アプリ「ボイストラ」が活躍。アテンダントの武藤さん(右)はスウェーデンから来たイリジンさんに付近の観光スポットを説明した(写真=坂田 亮太郎)

 ボイストラなら31言語に翻訳できる(中国語とポルトガル語の方言含む)。アプリを立ち上げて日本語で話しかければ、瞬時に指定した言語に翻訳されて音声で出力される(音声入力は19言語、音声出力は15言語に対応)。例えば「剥離骨折の可能性があるのでレントゲンを撮ってください」という程度の会話なら、ほぼ正確に翻訳できる。

 ただ、言葉は地域や使う状況によって意味が大きく変わる。「めったに当たりません」という言葉も、野球場とフグ料理屋では訳し方が全く異なる。そのため地域や業種ごとに地名や専門用語を収集し、翻訳精度をより引き上げようとしている。「2020年の東京五輪までに言葉の壁をなくす」(総務省情報通信国際戦略局の荻原直彦・研究推進室長)ため、官民一体となった取り組みが精力的に進む。

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