市場縮小で企業も変わった

 IFRSの歴史を少し振り返ってみよう。これは英ロンドンの国際会計基準審議会(IASB)が設定する会計基準で、2005年に欧州連合(EU)に上場する企業に強制適用された。以来、欧州を中心に世界に広がっていったが、主要先進国では日本と米国だけが、適用を強制していないと言われる。

 もっとも日本は2007年、日本基準を2011年半ばまでにIFRSとほぼ共通にすることを決めた。その後、2011年に時の民主党政権が強制適用を先送りし、そのままになっている。

 しかし、少子高齢化・人口減で国内市場が長期的に縮小すると見られる中、M&Aやグローバル化は成長のための最重要戦略となってきたことから、企業の側が変わってきた。さらに自民党の安倍晋三政権に代わった後、「2013年10月に企業がIFRSを任意適用するための条件を緩和。海外に大規模な子会社を持たない中堅企業も適用できるようにした」(有限責任監査法人トーマツの岩崎伸哉・IFRS室長)。翌2014年6月には、安倍首相肝煎りの日本再興戦略で「IFRSの任意適用拡大促進」を打ち出したことが後押しともなった。

 日本基準とIFRSの大きな違いは、前述の、のれんや研究開発費の計上方法だけではない。資産の収益性が落ちた際に、その価値を減額する「減損」では、IFRSの方が日本基準より早期の実施を迫られやすいと言われる。

 あるいは、設備など資産価値をある期間で落としていく「減価償却方法」では、IFRSはある期間中に定額で価値を落とす定額法しか事実上採用できないと言われる。一方、日本基準は、それより短期で価値を落とし、節税効果の取れる定率法も使えるなど、企業の恣意性が働きやすい。

財務で経営者の考えをアピール

 急成長を目指すベンチャー企業を中心に利益の押し上げを狙ってIFRSを適用する動きがあることはこれまで指摘した。大企業にはまた別の思惑がある。その一つは、IFRSの方が経営の意思を内外にアピールしやすいことだ。

 「売上収益」「調整後営業利益」「受取利息及び支払利息調整後税引き前利益(EBIT)」「継続事業税引き前利益」「親会社株主に帰属する利益」…。

 2015年3月期からIFRSを適用し始めた日立製作所の2017年3月期第1四半期の決算短信には、見慣れない収益、損益項目が並んでいる。

 このうち、調整後営業利益は元の日本基準とほぼ同じで、事業の稼ぐ力を示している。一方、IFRSの営業利益には、リストラなどに伴う特別損失や、不動産売却などによる特別利益なども含まれ、全く異なるものになっている。調整後営業利益は、IFRS営業利益から特別損益に当たる部分を差し引いて、元の営業利益に近くしたものだ。

 そして、「受取利息及び支払利息調整後税引き前四半期利益(EBIT)」は、リストラなどで撤退する事業からの利益を除いている。「継続事業税引き前利益」との違いは、受取・支払利息などを差し引いていること。今後も続ける本業の事業利益を示している。

 IFRSの特徴は、営業、経常、純利益といった表示が定型となっている日本基準と異なり、表示項目を企業側が自由に設計できる点にある。

 「例えば『継続事業税引き前利益』は、特定事業のリストラを決めて、実際に撤退や売却をする前でも、今後も社内に残す事業だけの利益を見せることができる。それによって、リストラを実施する経営の意思を直接的に見せることができる」(日立製作所)。投資家や社内に経営の考え方をはっきりと示すことで、投資を呼び込み、社内が素早く動けるようになるという。

 この投資家へのアピール力の強さを存分に生かしているのがソフトバンクグループだ。同社が意識して表示しているのは、「調整後EBITDA」。営業損益に減価償却費と、関係会社を子会社化した場合の評価損益を上乗せする企業結合再測定損益、その他営業損益などを加えたものだ。