IFRSに動く企業は急速に増えている
IFRS適用済み企業などの時価総額比率
注:IFRS適用検討企業は、適用について検討していることを明らかにしている企業。
ここまで合わせると、東証上場企業の総時価総額の48%を占める。今年6月末時点
出所:東証の資料を基に本誌作成

 ではなぜ今、IFRSを適用したり、適用準備に入ったりする企業が急増しているのか。

 前出の日本ペイントHDは2009年3月期、リーマンショックの影響で最終利益が前期比で73%もの大幅減に陥った。2013年には長年の提携先だったウットラムからTOB(株式公開買い付け)を仕掛けられた。最終的には同社とは“復縁”したものの、「食わなければ食われる」という強烈な体験をしたことで、それまでに比べ、強く成長を追い求めるようになった。

 IFRS適用企業に共通するのは、日本ペイントHDのような「打って出る」姿勢だ。アニマルスピリッツと言い換えてもいい獰猛さである。

(写真=上:竹井 俊晴、中:的野 弘路、下:菅野 勝男)

 「これから積極的にM&Aをしていきたい。そんな時にのれんの償却負担は成長の阻害要因になるだけ」

 東証2部上場で、企業のウェブマーケティングの受託などを手掛けるメンバーズの小峰正仁・取締役CFO兼常務執行役員はそう言う。

 小峰取締役によれば、国内のウェブ関連市場は2020年には47兆円に拡大するという。持続的成長に向けて、今は成長投資が必要な時期だが、そこで障害となるのが「のれん」の存在。

 のれんとは、企業を買収する際の買値と被買収企業の純資産の差額だ。ブランド力や技術力など、他社より多くの収益を上げる源泉になる無形の価値を表すものとも言える。日本基準ではこれを20年以内に毎年均等償却し、価値を落としていくが、IFRSでは定期償却を必要としない。つまり大型のM&Aをしたり、M&Aを多用したりする企業には、償却負担なく、事業を拡大できるという魅力がある。成長を目指す企業がIFRSに引き寄せられる要因の一つはここにある。

リスクばかり言うのは経営でない

 IFRSについては、特に新興企業にその魅力を感じる企業が多い。

 東証マザーズに上場するメタップスはゲームソフト会社の販促支援などをする。例えばオンラインゲーム開発会社が自社製品のテレビCMを打ったとする。その際、ゲームユーザーがどのように変化するかビッグデータ解析をするシステムの開発などを手掛ける。

 IFRSの場合、こうした開発を「完成させ売却することが技術的に可能である」といった6つの要件を満たすと、開発費を資産計上できる。資産計上すれば、費用は減るからその期の利益は押し上げられる。日本基準だとそうはいかない。全て費用計上しなければならず、積極的に開発するほど、利益は圧迫されることになる。

 「次々に新しいシステムや技術を開発しようとする我々のような企業は、(開発をするほど利益が圧縮される)日本基準では後手に回ることになる」。公認会計士でもある同社の加藤広晃・経理部長はこう言う。やはり、アグレッシブな成長への志向がIFRSを選ばせているのである。

 のれんにせよ開発費の資産計上にせよ、もくろんだ収益が見込めなくなると、その価値を落とす減損を迫られる。IFRSはいいことずくめではないが、急成長を求めるベンチャー企業は、リスクよりもメリットを感じるようだ。「リスクを見ることは大事だが、そればかり言うのは経営ではない」とメンバーズの小峰取締役は指摘する。