「いつかは軍艦や客船も」

 日本の造船産業は1970年代には30万人近くが従事し、基幹産業の一つに数えられてきた。だが、造船を所管する国土交通省によると、その数は今では8万人程度と、技能伝承すら危うい。

 造船業界では2020年にSOx(硫黄酸化物)の排出規制が全海域で強化されるのに伴い、規制に適合した設備を備える新造船の需要が18年ごろから盛り上がるとの見方も一部ではある。

 国交省は競争力の底上げを狙い、IoT(モノのインターネット化)やAI(人工知能)など新技術の活用を促す。新たな受注を確実に捉えながら、日本勢の世界シェアを現在の約2割から25年に3割へ高める青写真を描く。

 ただ、韓国や中国も国を挙げて造船強化に努めており、競争の激しさは変わらない。日本勢の多くが事業の見直しに動く中では拡大戦略にまい進する今治造船の存在感はいやが上にも高まる。

 関係者によると今治造船の檜垣社主はかつてこんな夢を語ったという。「(重工系だけが造ってきた)軍艦や客船もやりたい」。一昔前なら一笑に付されていたかもしれないこの発言も、今の今治造船なら、決して夢物語ではないかもしれない。

三菱重工業
設計・開発で稼ぐ
執行役員 大倉 浩治
(写真=北山 宏一)

 今治造船など専業3社との提携は中国勢や韓国勢に対抗していく上での共同戦線だ。ただし4社で連合するわけではなく、あくまでも三菱重工と各社の提携。三菱重工とは船種の面で競合はないが、各社同士はライバルでもある。

 3社はそれぞれ生産効率などの面で得意とする船種がある。各社が新しい設備や燃料を使った船を開発する際、三菱重工はこれまでに蓄積したエンジニアリング力などを提供できる。例えば2020年に始まる硫黄酸化物(SOx)規制強化に適合した船の開発などだ。

 これまでも三菱重工が開発した基本船型を各社に提供し、専業各社が詳細な設計に落とし込んで建造する例はあった。設計や開発と、実際の生産を分担するのはそう特異なことではない。

 各社が強くなり事業規模を拡大できればリソースを提供する三菱重工にとってもメリットが出てくる。三菱重工としてはLNG(液化天然ガス)船やフェリー、貨物車が直接乗り降りできるRORO船、護衛艦や巡視船などの建造は続けていく。

 今年7月には長崎や下関などに分散していた商船の設計や営業、調達などの部門を横浜地区に集約した。1フロアに集まったことで変化対応へのスピードが上がった。

 これらの新方針を着実に推進するため、船舶海洋事業を18年1月に分社化する。世界を意識した事業運営に徹するには造船専業の視点に立ったマネジメントが必要であり、そのための体制作りを急ぎたい。(談)

川崎重工業
建造の軸足は中国に
常務執行役員 餅田 義典
(写真=陶山 勉)

 今年3月末に船舶海洋事業の構造改革を発表した。国内は赤字が出ないようにしつつ、中核的な技術力を維持・向上。収益は中国で伸ばすのが基本的な戦略だ。

 国内の商船建造は坂出工場(香川県坂出市)に集約する。事業規模の3割削減に向け、ドックを2本から1本に減らすなどしてコスト削減を徹底する。一方、中国大手海運との2つの合弁会社(南通中遠川崎船舶工程=NACKS、大連中遠川崎船舶工程=DACKS)に建造の軸足を一段と移す。中国での建造コストは日本よりも1割は安く、競争力があるからだ。

 構造改革の検討過程で、他社との提携や事業統合に踏み切るようなマーケット環境ではないと考えた。規模が拡大すれば購買力向上や競合プレーヤーの減少といったメリットはある。だが下手をするとかえって赤字が膨らみかねない。もし(2013年に統合話が破談となった)三井造船と一緒になっていたとしても、どこかの造船所の閉鎖を余儀なくされたかもしれない。

 船舶海洋事業には子会社を含めて地元採用者を中心に2600人の従業員がいる。一気に事業撤退する場合、全員を他の事業で吸収することは難しく、地域経済への打撃も大きい。今回の構造改革によって国内では通常の退職による自然減のほか、一定の配置転換は必要になるが、秩序だった対応が可能だ。

 神戸で手掛ける潜水艦は今後も堅調な見通しだ。防衛省の増強計画に基づき、修理需要なども拡大すると見ており、着実に受注につなげていきたい。(談)

ジャパンマリンユナイテッド
日本に造船産業は絶対に必要
社長 三島慎次郎
(写真=北山 宏一)

 日本は貿易立国だ。海洋資源開発やシーレーン防衛などを考えても、日本に造船産業は絶対に必要だ。だが受注から引き渡しまでの足が長く、好不況の波も大きい。現在の重工大手の経営陣にとってはこの特殊性がリスクに映ってしまうのだろう。

 ジャパンマリンユナイテッド(JMU)は総合重工系ながら造船専業という立ち位置だ。逃げるわけにはいかない。JMUの強みは統合で結集した豊富な設計陣や7つの造船所による得意な船種の連続建造にある。

 造船で重要なのは、設計や開発を担う部門と、現場の建造部門との緊密な意思疎通だ。双方向の真摯なフィードバックを繰り返すことで品質が向上する。これはJMUという同じ会社の仲間であり、名実ともに利益を共有するからこそ成り立つ。

 長期的には現在の約5割増しの5000億円程度の売上高を目指す。造船は厚板のほか、エンジンといった舶用機器など材料費がコストの3分の2を占める。規模を拡大すれば購買力が高まる。マーケットがもう少し回復すれば自力達成も不可能ではないが、それまでは部品の共通化などコスト削減を徹底し、しのぐしかない。

 今治造船など国内勢とは切磋琢磨し、日本造船の産業規模を維持・拡大したい。強い造船業があってこそ、サプライチェーンを保ち、優秀な若手人材の受け皿になれる。商船の競争力がなくなれば海上自衛隊向け艦艇の建造基盤維持も難しくなる。(談)