丸亀では新ドックに加え、もう一つの「秘密兵器」の準備が進む。18年春の稼働を目指す、長さ200m級の大型水槽だ。

一見すれば、ただのプールだが、侮ることなかれ。水槽の大きさに合わせて、実際に建造したい船の縮小モデルを作り、水面に浮かべて「航行」させれば、大海原で船舶が受ける抵抗などを模擬できる。人工的な波を起こせばより現実に近づく。コンピューターによるシミュレーション(模擬実験)よりも精緻な計測ができることから、高効率に航行する新型船の設計には欠かせない設備だ。
こうした水槽を持つのはこれまでは資金力のある三菱重工業など重工系メーカーに限られていた。今治造船のような専業メーカーは、国立研究開発法人・海上技術安全研究所(東京都三鷹市)が備える長さ400m、幅18mの水槽を借りるしかなかった。
しかも同研究所の通常業務の合間を縫っての利用。数カ月待ちも珍しくない。超大型コンテナ船やLNG(液化天然ガス)船など付加価値の高い船の建造を積極化する今治造船にとっては、数十億円を投じてでも保有したい設備となった。「新型船の設計から完成まで、リードタイムが数カ月短縮できる切り札になる」と今治造船幹部は期待する。
1956年に英国を抜いて建造量で世界トップに立ち、「造船大国」として君臨してきた日本。90年代にその座を奪われてから、コスト面だけでなく、技術面でも急速に力をつける韓国や中国勢の陰に徐々に隠れてきた。国内勢の2016年の新造船受注は前年の約2割の水準。17年はやや好転しつつあるが、それでも船価の戻りは鈍く、造れば赤字に陥りかねないのが実情だ。
旧NKKやIHIなどの造船部門が13年に結集したジャパンマリンユナイテッド(JMU)の誕生以来、業界の大型再編も止まったまま。日本の造船業をけん引してきた三菱重工などの重工系は構造改革を迫られる。
実際、三菱重工は今治造船や大島造船所など専業3社と提携。高コストな自社での建造は艦艇やフェリーなど一部を除いて諦め、自らはエンジニアリングに特化して採算性の向上を目指す。
川崎重工業も国内建造の縮小にかじを切り、中国での合弁事業に経営資源を集中する方針を打ち出した。川崎重工との経営統合協議が破談となった三井造船は18年4月に持ち株会社に移行、造船部門を分社化する。
8月上旬には防衛装備庁が汎用性の高い新型護衛艦の建造を三菱重工と三井造船に委ねると発表。安全保障面で重工系の果たす役割は依然大きい。
ただ世界を見渡しても、商船の苦境ぶりは似たり寄ったりだ。韓国では経営不振の大宇造船海洋に韓国政府が金融支援しているほど。こうした国を挙げての支援が「ゾンビ企業」を存続させ、過当競争は収まる気配はない。
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