山を切り開いて造成された富士山静岡空港。ターミナルから車で5分ほどの距離にFDAの「訓練センター」がある。そこに、国内唯一の装置があった。エンブラエル機の操縦訓練ができるフライトシミュレーターだ。

自前の「フライトシミュレーター」

 「創業時からフライトシミュレーターを自前で持っている航空会社なんて国内では聞いたことがない」

 この6月、取締役から退いた蓬莱正樹顧問は、そう話す。蓬莱顧問は、JALの操縦士として34年間、活躍した後、慶応義塾大学体育会航空部の先輩でもある鈴木会長に請われ2009年にFDAへ転職。FDAでも5年間、エンブラエル機の操縦桿を握った。

 一般にフライトシミュレーターは初期投資だけで20億円ほどかかるため、創業時はJALやANA、あるいは海外航空会社の装置を借りるのが常識だった。今でこそ、スカイマークやスターフライヤーも自前のフライトシミュレーターを保有するが、創業時は他社の装置をレンタルしていた。

 しかし、約30億円のエンブラエル機2機から始めたFDAは当初から保有。「10機保有して、初めて1台持つかどうか。当時、業界では『もう1機、飛行機を買った方がいい』とバカにされていた」と蓬莱顧問は言う。

 「航空ビジネスは、1つのユニットが10機。最初からそこまでは増やそうと考えていたので、いつか買うなら早い方がいい」と決めたのは鈴木会長。当時、社内でも「殿のご乱心」と騒がれたのだが、結果としてFDAの成長を支えることになる。

 2010年に経営破綻したJALが小牧空港から事実上、撤退。その穴を埋めるようにFDAが本拠地を富士山静岡空港から移したことが、大幅な路線数拡大の契機となった。

 併せて、JALなどから多くの操縦士が移籍し、当初15人だった操縦士は90人以上に急増。だが、彼らはエンブラエル機など操縦したこともなく、FDAが就航する地方空港の発着経験も乏しい。当然、フライトシミュレーターによる訓練が必要だったのだが、エンブラエル機のシミュレーターを持つ他社は国内になく、最寄りで中国、あとは米国、オーストラリア、フィンランドまで行かねば利用できない。

 その時間とコストを考えると、「レンタルでは乗員の急増に対応できなかった。大変なことになっていた」(蓬莱顧問)という。

 安全運航にも寄与している。昨年7月、松本空港行きのFDA機が新潟空港に緊急着陸した。機内の気圧が低下したための措置。FDAはすぐに国土交通省の運輸安全委員会立ち会いの下、シミュレーターで緊急着陸時の状況を忠実に再現。機長の判断が正しかったことが証明され、当該機はわずか3日後、通常運航に復帰した。「レンタルだったら、こんなに早期に検証作業ができなかった」(蓬莱顧問)。

 さらに自前のシミュレーターは思わぬ副収入もFDAにもたらした。

 JALグループのコミューター航空会社、ジェイエアも、2009年からエンブラエル機を就航させている。保有するエンブラエル機は18機。この訓練のためにFDAの装置をレンタルしており、シミュレーターの稼働率はほぼ100%となっている。

 一般にレンタル代は1ラウンド4時間で20万~40万円。FDAのレンタル費用は非公表だが、ジェイエアからの副収入は数億円に上るとみられる。

自前の旅客システムで収益改善

 FDAの“自前主義”は、訓練設備にとどまらない。

 座席の販売や路線などを管理する自前の旅客販売システムは、航空会社の営業の心臓とも言える。エア・ドゥ、スターフライヤー、ソラシドエアなど新規参入の航空各社の多くは、ANAの旅客システムを“間借り”している状態だが、FDAはこれを自前で持つ。

 「自分でやらざるを得なかった。ほかに誰も助けてくれなかった」(鈴木会長)というFDAは、米ヴァージン・アメリカなど海外で実績のある、リージョナル航空向けのパッケージ「iFly Resシステム」をベースに、独自の旅客システムを作り上げた。これが優位性をもたらしている。

 「新しい運賃を1つ追加しようとなった場合、自前だとすぐに対応できるが、レンタルだとものすごい手間と時間がかかる。そもそもレンタルは、借りている会社に営業情報が筒抜けになってしまい、競争が成立しない」

 こう話すのは営業業務部の中尾仁部長。最も威力を発揮したのは、2009年9月に空席状況によって運賃を変動させる空席連動型運賃を国内で初めて導入した時だった。

 それまで国内線の運賃は、何日前までに予約するか、期日で分かれていたが、FDAは空席連動型運賃をいち早く導入することで「だいぶ収益性が改善された」(中尾部長)という。

 そのほか、空席が目立つ便の座席を直前に大幅割引で出す「ドリームスペシャル」など、他社にはない独自料金を打ち出している。これも手伝い、就航初年度、49%だった全体の搭乗率は、2015年度、地方路線中心にもかかわらず62.4%と、ドル箱路線を多く抱える大手(ANAは64.1%)に迫っている。

 こうしたインフラ面の自前主義に加え、FDAは「大手にはまねできない」さらなる独自戦略を重ねることで安定経営を維持している。1つが、地方自治体との緊密な連携だ。