「つなぎ役」への投資

 JETROコロンボ事務所の小濱和彦所長はスリランカを「つなぎ役」と例える。中国やインドと異なり、スリランカ自体の市場規模は小さい。モノを販売して大きな収益を得られる国ではない。さらに、政治リスクもある。日本の消費税にあたる付加価値税(VAT)が今年5月、11%から15%に突然引き上げられた。だが、「今後も市場拡大が見込まれるインドやアフリカにつながる玄関口としての魅力を見逃すのはもったいない」と小濱氏は語る。

 スリランカ政府は港湾立国をさらに進める方針だ。前出のスリランカ投資委員会のヴィーラコーン氏は「コロンボ港の魅力をてこに各種製造業の誘致を図り、コロンボ経済をさらに成長させる考えだ」と意気込む。

 さらに「日本からの投資に期待している。金融や沿岸漁業など一部の業種を除いて、外国資本に対する出資規制はない。100%出資会社の設立も可能。利益を本国に送金する際にも制限はない」という。

 中国の経済成長が減速し、つられるようにASEAN諸国でも成長が鈍化している。日本企業は今こそ、インド市場やさらなる西、中東やアフリカ市場に目を向け、その橋頭堡作りを考えるべきではないだろうか。

親中から全方位外交へ
10年ぶりの政権交代で大統領になったマイトリパラ・シリセナ氏(左)とラニル・ウィクラマシンハ首相(右)(写真=2点:ロイター/アフロ)
10年ぶりの政権交代で大統領になったマイトリパラ・シリセナ氏(左)とラニル・ウィクラマシンハ首相(右)(写真=2点:ロイター/アフロ)

 2015年1月に実施されたスリランカの大統領選挙で、3選を狙ったマヒンダ・ラジャパクサ大統領(当時)を、野党統一候補のマイトリパラ・シリセナ氏が破った。シリセナ氏は立候補を表明する直前まで、ラジャパクサ氏が率いる与党・スリランカ自由党(SLFP)で幹事長を務めており、ラジャパクサ氏の側近だった。

 ラジャパクサ氏は26年に及ぶ内戦(囲み記事「スリランカを知るキーテーマ4」参照)を強烈なリーダーシップで終わらせた功績はあるものの、独善的な行いが批判を集めた。憲法改正を強行して大統領の3選を禁止する規定を削除するとともに、身内を経済開発相に就任させた。汚職疑惑も浮上した。

 こうした政治姿勢に対し、シリセナ氏が造反。SLFPに所属しつつも、野党の統一候補として勝利を収めた。

 選挙戦でシリセナ氏は、従来の親中外交を全方位外交に改める、公務員の給与を一律で引き上げると訴えて、支持を集めた。ラジャパクサ政権はコロンボ港をはじめとするインフラ整備の多くを中国の支援で賄っていた。

 シリセナ氏が大統領に就任後、最初の外遊先に選んだのはインド。同国が内戦時に反政府軍を支援したため関係が悪化していたのを改善すべく、真っ先に足を運んだ。この訪問は中国一辺倒だった外交路線を修正する意味も持っている。

 2015年8月には議会選挙(一院制で225議席)が実施され、大統領選でシリセナ氏を支持した統一国民党(UNP)が106議席を獲得して第1党となった。分裂状態にあるSLFPのシリセナ派議員(約70人)とともに大連立を組んでいる。シリセナ大統領はUNPのラニル・ウィクラマシンハ党首を首相に指名した。

 連立与党は総議席の3分の2以上を占め、安定しているように見えるが、多くの課題を抱える。最大の課題は政府内のポスト争いに端を発した混乱だ。UNPは10年ぶりに与党に返り咲いたため、ポストを待望する議員が多い。シリセナ大統領はポスト不足を補うため多くの役所を新設した。現在51の省があり大臣が49人存在する。新設した省庁と既存の省庁との間で管掌する業務がかぶったり、それぞれが異なる判断をしたりして、業務に支障が生じている。

 「与党慣れしていない大臣が合議制で省議をまとめようとしている。いつ決定がなされるのか全く読めない」(日系企業)と厳しく指摘する声も上がる。

 内戦で傷んだインフラを復興すべく投資を拡大するスリランカは、慢性的な歳入不足と貿易赤字に直面している。最大のスポンサーである中国と距離を置き始めた今、次なる有力スポンサーとしてインドと日本に対して期待を高めている。

(日経ビジネス2016年7月11日号より転載)