VWが組み立て拠点を設置へ

 積み替えには当然、手間と時間、コストがかかる。そこで、積み替えなしに貨物が運搬できるコロンボ港のメリットに注目し、周辺に製造拠点を構える企業が現れ始めた。

 その一つが独フォルクスワーゲン(VW)だ。同社は昨年、組み立て工場を新設することでスリランカ投資委員会と合意した。2018年からの操業を見込む。「ポロ」「ゴルフ」など排気量1000~2000ccクラスの乗用車やSUV(多目的スポーツ車)の組み立て工程を担う予定だ。

 「操業当初はスリランカ国内向けにクルマを生産する。将来は輸出向けのクルマに展開する」(VWのアジア広報)という。その視線の先にあるのは、インド、そしてアフリカの市場だ。

 VWが製造・物流拠点としてスリランカを選んだ理由は、良港と低い人件費に加えて、スリランカとインドがFTA(自由貿易協定)を結んでいることが大きい。インドからの輸入では5223品目、インドへの輸出では4026品目において関税を撤廃した。自動車の部品もこれらの品目に含まれる。VWはインドにある部品工場から、関税を負担することなくスリランカの組み立て工場に部品を運び、組み立てることができる。

 インド南部のチェンナイやバンガロールには多くの自動車メーカーが製造拠点を構える──。日産自動車やトヨタ自動車、ホンダ、米フォード・モーター、さらに独BMWや韓国の現代自動車。現在はインド国内市場向けに生産しているが、今後は需要の爆発が期待できるアフリカへの輸出も視野に入ってくる。VWに追随する可能性が十分にある。

 コロンボ港はこうした需要の拡大を見込んで、次なる手を打ち始めた。同港を管理するスリランカ港湾公社(SLPA)のダンミカ・ラナトゥンガ会長は「新たなターミナルを建設中だ。シンガポールや香港、中国とは異なる強みを発揮する港にする」と語る。最大コンテナ取扱量を現行の720万TEUから、2017年末までに960万TEU、その後1200万TEUまで拡張する。

 コロンボ港の強みとは、各種料金の安さと積み替えのスピードだ。エクスポランカの資料によると、コロンボ港における荷揚げや倉庫保管などの料金は、ほかの主要港の3分の1以下にとどまる。同社が定義する独自の指数を見ると香港港やシンガポール港が9.0であるのに対してコロンボ港は2.82だ(数値が小さいほど費用が安い)。

 さらにSLPAのマネージングディレクター、サラサクマラ・プレマシャンドラ氏は「小回りが利き、他国の港よりも短い時間で積み替えが可能」と胸を張る。コロンボ港に入港する300m級の巨大なコンテナ船の数は2011年から2015年の間に3.5倍(651隻)に拡大したにもかかわらずだ。

日本企業の進出が相次ぐ

コロンボ市内では、外資企業によるホテルや高層マンションの建設が進む。写真は建設中のシャングリ・ラ ホテル
コロンボ市内では、外資企業によるホテルや高層マンションの建設が進む。写真は建設中のシャングリ・ラ ホテル

 スリランカが持つこうしたビジネスチャンスに気付いた日系企業の進出が拡大し始めている。2016年4月には日本通運が支店を設置。内戦終了に伴う復興需要や、国内のインフラ開発などに伴う設備や資材の輸送需要を取り込むためだ(囲み記事「スリランカを知るキーテーマ4」参照)。

 1月には三菱東京UFJ銀行が邦銀として初めて出張所をコロンボに開設した。同行コロンボ出張所の山本太一・上席所長代理は「これまで様子見が続いていたが、いよいよ資金需要が本格化しつつあると判断した」と語る。

 三井住友銀行は6月27日、アジア開発銀行(ADB)と合意、コロンボ港東ターミナル拡張工事について、SLPAに共同で助言する。同工事の事業費は5億ドル(約510億円)にのぼる。

 インフラ事業向けプロジェクトファイナンスの取りまとめ役を巡り、日系金融機関の指名争いも激化しそうだ。

 現在、スリランカ政府はインフラ投資に力を注ぐ。スリランカ投資委員会でエグゼクティブディレクターを務めるレヌカ・ヴィーラコーン氏は「コロンボを中心とした西部州を大規模に開発する『メガポリス計画』がある」と語る。

 国際協力機構(JICA)は今年3月、コロンボ・バンダラナイケ国際空港の拡張事業向けに454億2800万円を限度とする円借款貸付契約をスリランカ政府との間で締結した。

 今後のインフラ開発に対して、三菱商事や三井物産、伊藤忠商事といった商社やみずほ銀行も関心を高めている。

 スリランカへの直接投資額はここ数年、中国や香港が上位を占め続けている。日本は2015年、17位にとどまった。このネジが逆回転しつつある。

 内戦の終結は復興需要に加えて、もう一つの副産物をスリランカにもたらしている。海外に流出した優秀な人材がスリランカに戻りつつあるのだ。

 ディニッシュ・サパラマドゥ氏はその一人。企業の人事管理システムを開発・販売するIT(情報技術)企業セニッドを経営している。1986年に渡米して大学でソフトウエア開発を学び、卒業後は米保険会社のシステム部門に就職。96年に帰国してセニッドを起業した。

 「海外に出た人材が、広い視野を持って帰ってきている。20~30代の若い人も多い。彼らがIT分野を中心に起業し始めた」と同氏は語る。

 こうした人材の逆流は、コロンボ港を核に発展するビジネスとは異なる新たなビジネスが今後誕生することを予感させる。ある20代の起業家は、2011年にスマートフォン向けアプリの開発会社を設立。インドと南アフリカに展開中だ。

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