開発力向上へあえて逆転人事

 企業の中には、逆転人事を戦略的に実施することで、会社全体の開発力を維持しようとしている会社もある。大阪市に本社を置くナリス化粧品(村岡弘義社長)だ。

社内からも仕事の依頼が殺到するナリス化粧品の森田美穂氏。研究に没頭できるよう調整するのが井上課長の役割だ(写真=菅野 勝男)
社内からも仕事の依頼が殺到するナリス化粧品の森田美穂氏。研究に没頭できるよう調整するのが井上課長の役割だ(写真=菅野 勝男)

 今年で40歳を迎える森田美穂氏は、社内で最も多く特許を出願してきた研究課のエースだ。01年の入社以来、約40の特許を出願し、化粧品の五輪といわれる「国際化粧品技術者会連盟世界大会」の常連でもある。16年の大会では、空港の身体検査で利用される電磁波「テラヘルツ波」を応用し、化粧品を塗布した際の角層の水分量を正確に測定する方法を発表した。

 現在は研究課内にある基盤技術グループのリーダーとして開発の最前線に立つ森田氏。1932年に創業し今年85周年を迎えた同社では、森田氏ほどのキャリアと実績があれば課長になるのがこれまでの流れだった。

 しかし課長になれば、研究に割ける時間は大きく減る。キーマンが現場から距離を置くと会社全体の開発力が落ちかねないと懸念した会社は2017年春、森田氏の了承を得た上で別の人材を課長にすることを決断した。

「年下上司の方が働きやすい」

 ここで抜擢されたのが、当時、同じ研究課の処方応用グループのリーダーだった井上明典氏だ。井上氏は森田氏より5つ年下。結果として年下上司を持つことになった森田氏だが、「年下上司の方がやりやすい」と話す。

 森田氏を現場に据え置くことで会社は開発力を維持し、森田氏自身もライフワークである研究に没頭できる。一方、井上氏にとっても若くしての昇格であり、悪くない話だ。「承ったからには課長としての役割を果たしつつ、森田さんが研究しやすい環境を作っていきたい」と井上氏は話す。

 様々な産業で増え始めた、年下上司の下で働くことをあえて選択するミドル。いずれにせよ、日本企業が今後、本当に活力を維持し続けたいなら、会社における「年次の逆転現象」は増えざるを得ない。

 企業が、環境変化に対応し成長を続けていく上で最も有効な形が「ピラミッド型組織」だ。経営層、中間管理職、現場と、階層が下がるにつれ人員や組織数が増える形態こそが、最も効率的に組織を動かし投資効果を最大化させる。同程度の素養を持つ社員が集まった企業なら、社員間の能力の差を分けるのは経験でしかないから、理屈の上では、健全な企業ほど、より経験のある者(より年次が上の者)が上位に座るピラミッドになる。

 これを図式化したのが下の左のピラミッドで、「右肩上がりの時代の日本企業の組織は皆、この形をしていた」(日産自動車グループで30年以上人事畑を歩み、14年に行政書士として独立した木村勝氏)。

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