ビジネスの起点は年上部下

アキッパの横田学氏(左)は好んで年上部下になった。広田康博取締役(右)とともに事業を軌道に乗せるべくこれまで培ってきたノウハウを活用する(写真=菅野 勝男)
アキッパの横田学氏(左)は好んで年上部下になった。広田康博取締役(右)とともに事業を軌道に乗せるべくこれまで培ってきたノウハウを活用する(写真=菅野 勝男)

 「社内調整や部下の評価をすることに興味を持てないし、KPIがどうこう言われても何が面白いのかよく分からない。だったら専門であるデジタルマーケティングに磨きをかけたい。そのためには上司が年下であることは特に気にならない」と横田氏は話す。

 アキッパは、利用されていない月決めや個人宅の駐車場を、会員にシェアしてもらうサービスを展開する。貸し手はシェアしてもらいたい駐車場を登録。借り手はその中から好きな駐車場を選び、15分単位で予約・利用できる、という仕組みだ。

 この商売の成否は、どこにシェアできる駐車場があるか、会員にいかに周知させられるかにかかっている。登録されている駐車場の中には、大型駐車場の奥の1台分のスペースといった場合も多く、看板などでその存在を知らせるのは難しい。とはいえ、せっかく登録したのに利用者がいなければ、オーナーは納得しない。

 「そこで様々な工夫が必要になる」と横田氏は言う。例えば、アキッパの利用者の多くは、観光や流行スポットに行き、駐車場を借りたい人々だ。このため、アキッパのサイトでは、人気のスポットごとに周辺の駐車場を表示しているが、どのスポットをどの順番で並べるべきかは、季節やその日の天候で大きく左右される。そこで様々なデータを駆使し、登録してある全ての駐車場の利用率を最大化する並べ方を考えるのが横田氏の仕事だ。

 一方、広田氏は、横田氏が提案するシステムの改善策に優先順位を付け、そのための予算を確保するのが仕事。階層的には広田氏は上司だが、ビジネスの起点は横田氏にある、というイメージだ。「会社の根幹となるシステムは横田さんが構築するのがベストだし、他のことをやれと言っても横田さんは興味がなく、転職しかねない。今の布陣が会社にとっても最適だと思う」。広田氏もこう話す。

 そんなアキッパの2人が挙げる年上部下と年下上司の円満のコツは「人間関係を濃厚にし過ぎないこと」だ。例えば横田氏と広田氏は2人きりで飲みに行くことはあまりない。

 この“鉄則”は今回取材した多くの年上部下と年下上司が挙げており、その理由としては「どちらが勘定を持つかでもめる」「もともと管理職になるのを嫌がる優秀な年上部下はプライベートを大切にしている人が多い」といった意見が多かった。

 要は、飲み屋やゴルフ場でなく、あくまでオフィスで“仕事の腕”を認めさせること。これもまた、年下上司の下でやりがいのある場所を維持する条件の一つ、というわけだ。

 様々な思いからさらなる自己実現を目指し、あえて年下上司を持つ中高年が増えている一方で、ミドルならではの家庭の事情から年上部下としての働き方を選ぶ人も目立ち始めている。

くしまアオイファームの後藤祐一氏(中央)。スーパーの店長から一般社員になった。後藤氏の2階層上の上司(左)も29歳の下出淳平COO(写真=松隈 直樹)
くしまアオイファームの後藤祐一氏(中央)。スーパーの店長から一般社員になった。後藤氏の2階層上の上司(左)も29歳の下出淳平COO(写真=松隈 直樹)

 例えば、宮崎県串間市に本社を置く農業生産法人、くしまアオイファームに勤める後藤祐一氏。今年で53歳になる後藤氏の上司は、35歳で生産部長を務める清本春樹氏だ。

 大分県内の食品スーパーで約30年勤め、企画部長として80人ほどの部下を率いた経験もある後藤氏が、年下上司を持つようになったのは、妻の大病がきっかけだ。

 療養のため妻の実家に近い串間市で暮らそうと2年ほど前に転職を決断。とはいえ、介護があるため、前職のような残業が当たり前のマネジメント職は務まらない。「そんな時に今の会社との縁があり、清本部長の下で一兵卒としてお世話になることにした」と後藤氏は振り返る。

 スーパーと商社とジャンルは違えど、後藤氏が培ってきたマネジメント術は、最適な人の配置や業務手順などを考える上で、清本氏にとって大いに参考になる。だが、後藤氏は「アドバイスは求められた時に限り答えること」を心掛けているという。「あくまで自分は部下であり、提言するような態度は失礼」と考えるからだ。清本氏も後藤氏のそんな真面目な性格を分かっており、「少しでも不安なことがあれば、自分の方からどんどん積極的に相談を持ち掛けるようにしている」と話す。

 「時間に制約があるにもかかわらず今まで培ったスキルを生かせる環境を作ってもらった。こんなありがたい話はない」と後藤氏。今後は、親の介護などで後藤氏のような選択をするミドルも増えるかもしれない。

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