抜本改革、時間との戦いに

 手数料収入を得るための営業から、預かり資産残高を積み上げるための営業にシフトする──。投資信託の販売現場は変わりつつあると証券会社は主張する。

 変化の象徴として関係者が挙げるのが「ファンドラップ」と呼ばれる商品の伸びだ。毎月分配型投信に代わって大手証券や信託銀行などが販売に力を入れている。2014年から3年間で預かり資産の残高は5倍以上になった。

残高は3年で約5倍以上になったが……
●ラップ口座を利用する顧客の契約件数と金額の推移
注:ラップ口座金額、件数にはほかのラップサービスも含むが、約8割がファンドラップ 出所:日本投資顧問業協会のデータを利用しQUICK作成

 ファンドラップとは、証券会社や銀行が顧客と投資一任契約を結んで資金を預かり、複数の投資信託で運用するサービスのこと。プロが顧客の要望を聞いた上で商品選択して資産配分を決定、運用環境に応じて売買する。

 顧客ごとに取れるリスクや期待するリターンを組み合わせられるファンドラップこそが顧客本位の商品だというのが売る側の論理だ。

 だが、業界が拡販に力を入れる期待の星にも注文がついた。16年9月、金融庁が前年度の金融行政を振り返る「金融レポート」の中で、ファンドラップのコストに関し突っ込んだ言及をしたのだ。

 レポートではファンドラップと一般の投資信託のコストを比較。保有期間が4年を超えるとファンドラップの方が一般の投資信託よりもコストが高くなることを示した。ファンドラップの手数料は平均年2.2%。一方、投信は購入時に3%程度の販売手数料を支払うが、以降はかからない。長く持てば持つほどコストは割安になる。毎年払う信託報酬(平均年1.5%)と合わせても、一定の保有期間を過ぎればファンドラップのコストは投信を上回る。

 金融庁の指摘に対し、ファンドラップを販売する証券会社や銀行は、「手数料はオーダーメード運用の対価だ」と反論する。単なる投信と異なり、顧客向けのコンサルティングや自動的にポートフォリオを入れ替えるといったサービスが含まれるので、相応のコストがかかるのは当然というわけだ。

「やりたくない」が本音

 ただ、こうしたコンサルティングに対して魅力を感じて新規に資金を投じる人が増えているとはまだ言えない。日本の投信の純資産総額は横ばいが続く。既存の投信保有者が持っている投信を売却して、ファンドラップに乗り換える動きにとどまっているようだ。

 「(金融庁がやり玉に挙げた)毎月分配型投信を持つ顧客に、分配金が減ったタイミングでその投信の売却を持ちかけ、ファンドラップに誘導している」。営業の現場を知る業界関係者はこう打ち明ける。

 「金融庁が求めるフィデューシャリー・デューティーに対応しようとすると、手数料の引き下げや運用体制の見直しなど、これまでにない負担がかかる。やりたくないのが本音だ」。証券関係者は業界の雰囲気を説明する。

 顧客本位への転換にちゅうちょするうちに強力なライバルも台頭しつつある。「ロボアドバイザー」と呼ばれる、コンピュータープログラムが個々の投資家の要望に応じて最適な資産配分を提案するサービスだ。投資家はスマートフォンやパソコンがあれば、証券会社の窓口に行かずに自分に適した運用の指南を受けられる。人手を省くことで安価に提供でき、投資家の支持を集めつつある。売り物とするコンサルティングが優位性を失いかねない。

 日本の産業界がかつての低迷から脱し、国際競力を回復できたのは、痛みを伴うリストラを乗り越えたからだ。金融庁という“外圧”や急速なテクノロジーの進化という変化が次々と押し寄せる投信業界が、現状維持で持ちこたえられるという認識であれば、それは甘いのではないか。

 政府の方針であり、かつ業界の長年の悲願でもある「貯蓄から投資へ」という流れを作れるか。残された時間は少ないが、現状とあるべき姿の間にはまだ距離がある。