「製造強国」は張り子の虎か?

 だが、これをもって「中国の製造強国戦略は張り子の虎」と断ずるのは早計だ。藤田氏も「長い目で見れば、強い航空機産業クラスターが中国に形成され、世界市場における日本の航空機産業の位置付けが相対的に低下する可能性がある」と分析する。

 どういうことか。中国には巨大な内需と、外需を取り込むための戦略があるのだ。低価格を武器に内外の需要を確保。押さえた巨大市場を壮大な実験場として、さらなる技術開発につなげるサイクルを作ろうとしている。

 中国のスマートフォンメーカーはこのサイクルを生み出し成功した。中国メーカーのスマホはかつて「安かろう悪かろう」と見られていた。しかし、中国国内でスマホが普及するタイミングでシャオミ(小米)などが低価格を売りに販売を伸ばした。膨大な数の顧客の声を基に技術力を高め、海外にも進出できる力を蓄えた。ファーウェイ(華為技術)やOPPOは今や世界的なブランドになりつつある。

 中国の製造業はこうしたサイクルを航空機などのより先端的な分野にも広げようとしている。

アジアやアフリカなどに中国製品を売る狙いも
●「一帯一路」構想のイメージ図
<span class="nbd_t01">アジアやアフリカなどに中国製品を売る狙いも<br />●「一帯一路」構想のイメージ図</span>
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成長の余地は大きい
●「一帯一路」構想対象地域の人口と経済規模
<span class="nbd_t01">成長の余地は大きい<br />●「一帯一路」構想対象地域の人口と経済規模</span>
出所:中国一帯一路網

 C919は中国国内だけで既に500機以上の受注があるという。日本航空機開発協会が公表する「民間航空機に関する市場予測」によると、世界の航空需要(旅客キロベース)は16年から36年までの20年間で約2.4倍に増える。このうち中国のシェアは13%から18%にまで高まる見込みだ。さらにアジア太平洋地域全体に視野を広げれば、31%だった同地域のシェアは37%にまで拡大する。

 航空機そのものの需要で見ると、この期間にアジア太平洋地域の航空会社が購入する航空機の約6割が新規導入。一方、北米では9割超が既存機の置き換えだ。ここにもアジア太平洋地域での需要の大きさが見て取れる。

 中国が進める「一帯一路」構想は、こうしたアジア太平洋地域の旺盛な需要を取り込むための仕掛けだ。中国政府は今年5月、130カ国以上が参加する国際会議を主催し、同構想のさらなる浸透を図った。先ごろ、安倍晋三首相も協力を表明している。

 「一帯一路」は外交や軍事の面から語られることが多いが、中国の企業にとっては海外進出を促す追い風となる。「一帯一路の枠組みの中で、中国と参加各国との間で24の新規路線を開くことが決まっている」。6月上旬の航空技術フォーラムで登壇したCOMACの金海・総体気動部部長は一帯一路への期待を示した。

 C919の価格は「B737の半分程度」(COMACの盛氏)。この低価格を武器に、まずは、陸と海のシルクロード沿いに位置する新興国を狙い撃つ戦略とみられる。

次々登場するロボット企業

 自国の巨大な市場で力をつけ、低価格を武器に海外に攻め込む戦略を適用するのは航空産業に限らない。中国は、日本企業が強い産業ロボットの分野にも照準を合わせる。「中国製造2025」が定める重点10分野の中でも特に力を入れる分野だ。

 東芝の家電子会社を昨年買収した中国の家電大手、美的集団は、この年、ドイツの産業用ロボットメーカー、KUKAの買収を表明した。中国政府は、サーボモーターなど産業用ロボットの中核部品の国産比率を20年までに5割に高める計画も進めている。

 中国政府は産業用ロボットとともにサービスロボットについても成長を促す方針だ。日本やドイツといった“強敵”がいる産業用ロボット分野よりも、市場が未成熟なサービスロボットにチャンスがあると見て、参入する中国企業は数多い。

 上海立名智能科技は4月に香港で発表会を開き、ホテル用ロボットを開発し、全国のホテルチェーンと組んで市場を開拓すると明らかにした。同社は昨年設立されたばかりの新しい企業だが、単なるベンチャー企業ではない。

 同社の創業者で会長も務める柴国強氏は、もともと中国国内のホテル向けに、客室に設置するインターネットテレビなどを販売していた。中国のホテル企業と強いつながりを持っている。

 同社の株主には、創業メンバーのほかに、大手ホテルチェーンも名を連ねる。株主となっている北京首旅如家酒店集団は、「如家」などのブランドで3200超のホテルを運営する。また華住酒店集団は「全季」「漢庭」などのブランドで2000以上のホテルを出店している。

上海立名智能科技はホテルのチェックイン機を手始めに、ホテル用の様々なロボットを開発する
上海立名智能科技はホテルのチェックイン機を手始めに、ホテル用の様々なロボットを開発する

 上海立名智能科技のビジネスは上海大学と連携していることが大きな特徴だ。同大が開発するAI(人工知能)やビッグデータの技術を使い、ホテルで使用するチェックイン用の機器や荷物搬送用のロボット、警備ロボット、音声認識で宿泊客の要望に応える客室用ロボットなどを15年から研究・開発している。

 現在、ホテルのフロントに置く受付機をテスト中。今年秋から本格的に展開し、数年のうちに中国のホテル1万件に導入する計画だ。

 日本で働いた経験を持つ柴会長は、ホテル用ロボットを開発するに当たって、米国や日本のロボットメーカーを回った。「日本製ロボットの技術は確かに優れているが、価格が高すぎる。あるメーカーに『協力してコストを安くしましょう』と申し出たが、提携するには至らなかった」と話す。

 価格にこだわるのは、一気に市場を取れる価格でなければ意味がないとの考えからだ。中国ではビジネスチャンスがあると見るや多くの企業が参入してくることが多い。事業を始めるのであれば、参入と同時になるべく多くの顧客をつかまなければ先行企業といえども埋没してしまう可能性がある。受付機についても、ホテル側の費用負担がない形で設置するビジネスモデルを検討しているという。

 同社は英語版や日本語版のロボットも開発する予定。ホテルチェーンとのつながりと新たなビジネスモデルを組み合わせて、まず中国の巨大な内需を押さえる。そのうえで海外を目指す戦略はスマホや航空機などと共通する。

 一帯一路構想が進展し中国と友好的な関係を築く国が増えれば、航空機製造のようなインフラ産業だけでなく、立名智能科技にとっても海外に進出しやすくなるメリットがある。

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