法律などの違憲審査も、最高裁は70年の間にわずか10件しか違憲判決を出していない。「最高裁の判事は内閣の裁量で決められるという他国にない事情が影響している可能性もある」(ある憲法学者)と言われ、憲法裁判所の設置を求める専門家は多い。

 制定以来、一度も改正されたことがないという世界でも珍しい日本の憲法は、実際には多くの課題を抱えている。国民が憲法を通じて国家権力を形作るという国民主権を本当に実現するために、我々はこの問題に向き合うべき時期に来ているはずだ。

経営者も全力で政治家にぶつかれ
清水 信次ライフコーポレーション 会長兼CEO(最高経営責任者)
1926(大正15)年、三重県生まれ。太平洋戦争に従軍。復員後、56年に清水実業(現ライフコーポレーション)設立、社長に就任。日本チェーンストア協会会長や、日韓協力委員会には設立当初から参加し、理事長を務める。(写真=清水 真帆呂)

 現行の憲法は確かに、米国占領軍、マッカーサー司令官の指示で、昭和天皇の戦争責任と引き替えに日本が承認した。だから生まれたときは必ずしも善とも言えないし、ましてや100点満点じゃない。だが、あの昭和20年の敗戦の状況を考えたら、必ずしも否定はできない。

 その憲法が今日の日本国のいいところと悪いところを生んでいる。これをはっきりと見定めて議論しないと。今の憲法改正の議論はそこが抜けて落ちている。

 9条で「戦争はやらない」と定めた。そのために「陸海空軍その他の戦力は持たない」とも書いてある。ところが実態は陸軍も海軍も空軍も、しかも世界一優秀な戦車隊がある。それからイージス艦や潜水艦だって持っている。憲法で武力の保有を禁止しているのに、現実はまったく異なる。

 これはやっぱり直さなきゃならない。安倍さんが言うように、自衛隊の存在を憲法で明確にする。家に鍵もかけないで、すっぽんぽんでどうぞいらっしゃい、とうわけにはいかない。戸締まりのために自衛隊は必要だ。ただし、海外派兵は例外規定なしに厳しく禁じる。それに「非同盟」と「永世中立」も宣言しなければならない。だから私は集団的自衛権の行使にも反対だ。

 日本の経営者は自分の会社のことばかり考えて、国全体のことについて意見を言うことはほとんどない。皆無に等しい。ただ、今の経営者にそれを求めるのは酷だね。サラリーマン化した経営者ばかりだし、自分の力でゼロからはい上がってきた人は少なくなってしまった。

 もちろん経営者だって、政治に全力で対峙しなければならないときがある。それは憲法だけの問題ではない。1987年、中曽根内閣は突然、「売上税法案」を国会に提出した。中曽根(康弘)さんとは、兄弟・親子といえる仲だったけど、私は最後まで先頭に立って戦った。信念を持って話をすれば、たとえ意見が異なっても人間関係が壊れることはない。中曽根さんとは、今でもツーカーの仲ですよ。

 昔の経営者はファイトがあったし、政治家と一緒に天下国家を大いに論じた。今ではもう考えられないが東京・赤坂の料亭で、総理や大臣連中とよく一緒に会合を持った。飲み食いというより、お互い言いたいことを言い合った。政治家と経営者が高級料亭で一席を共にすることに批判はあるのは承知している。ただ、お互いが胸襟を開いて言いたいことを言い合う場があったことも事実なんですよ。(談)