ただ、自民党内では1票の格差問題に注目する議員が多い。地方で人口減少が止まらず、16年の参院選から鳥取と島根選挙区などを合区としたが、早くもその再分離を唱える声が高まり始めている。

 そのために、憲法43条で「全国民の代表」と規定される国会議員を「参議院では都道府県など地域代表にする」などと主張する。地域代表なら人口問題は回避できるという算段だ。

 「地域の声を中央に届かせるため」という考え方は理解できるが、「参院の強い権限」問題については、安倍首相は「参院の議論を待つ」と積極的には動かない構えを見せる。参院側の反発をかわすためだろう。合区解消の声の高まりと合わせてみれば、本質的な参院のあり方論より現実を優先した感が強い。現時点では、本格的な改正につながるとは考えにくい。

石破氏「矛盾の固定化を招く懸念がある」

 となれば、改憲案の柱になるのはやはり9条の改正だろう。9条で戦争放棄を規定する1項と戦力の不保持、交戦権の否認をうたう2項をそのまま残し、自衛隊の存在を明記する3項を入れるという安倍首相の意向は意外なほど自民党内で冷静に受け止められた。

 “疑問”を呈したのは、これを長年検討、議論してきた憲法族の一部議員だけと言っていい状態だ。例えば、憲法や防衛問題に詳しい石破茂・前地方創生担当相は「現状の1、2項の状態で3項を入れると矛盾の固定化を招く懸念がある」と主張する。

 自衛隊の存在を明記する3項を加えた場合、戦力不保持を定めた2項との整合性が不透明になるというのである。自民党憲法改正推進本部長代行の船田元衆院議員も同様の懸念を漏らすが、党内ではそれ以上の広がりを見せない。

 「12年に党の憲法改正草案を策定した後に当選した若手議員が既に200人に達している。もう一度議論をやり直す必要があるのでは」(平将明・元内閣府副大臣)といった声が精いっぱいだ。

 9条改正に慎重な公明党も加憲には乗りやすいとしており、改憲を唱えてきた維新の会には安倍首相は教育無償化で接近している(下の表参照)。主要項目を見る限り、党利党略を交え、安倍首相は憲法改正の実現に向けて動いている格好だ。

憲法改正の考え方にはかなりの隔たりがある
●各政党の憲法改正案・考え方
政党 憲法改正案または改正についての主な考え方
自民党
(2012年の憲法改正草案)
自衛権を明記、国防軍保持 首相の解散権を規定 憲法改正提案要件を衆参の各過半数に緩和など
公明党
(憲法改正案はない)
平和・人権・民主の3原則堅持。条文を加える「加憲」を主張 9条1、2項堅持。自衛隊の存在の明記などを議論の対象に
日本維新の会
(2016年憲法改正原案)
教育無償化 統治機構改革 憲法裁判所設置
民進党
(憲法改正案はない)
平和主義を脅かす9条改正に反対 現行憲法の改正の発議の要件には合理性がある

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