重要改正項目の教育無償化

 実を言えば、教育の無償化は日本維新の会の改憲案でもあり、憲法改正のために、維新を取り込みたい安倍首相には見過ごせない項目。自民党文教族にとっても、その立場を強める格好の材料となる。

 こども保険の本来の狙いは「子育て支援の強化」だったが、憲法改正の突風で、高等教育の無償化財源へ当て込まれかねなくなっているのだ。冒頭の若手議員は「大人たち(古参議員のこと)の思惑には乗らない」と言うものの、教育無償化が与党の憲法改正案に盛り込まれる可能性は小さくない。こども保険への包囲網は強まるばかりだ。

 今年は1947年に日本国憲法が制定されて70年。その節目の年に安倍首相は、自民党結党(55年)以来の党是である憲法改正を自らの手で実現しようとアクセルを踏む。

 この一連の流れを俯瞰して見ると、改憲の動きには“奇妙な”特徴も浮かぶ。その一つは、「我田引水」とも言うべき政治家の影が随所に見え隠れしていることだ。それは、高等教育の無償化だけにとどまらない。

 今回の憲法改正論議の中で主要な検討項目と考えられるのは、「9条」と「教育無償化」のほか、首相の専権事項といわれる「衆院の解散権」、強すぎるとされる「参院のあり方」や、大規模災害などに対応するための「緊急事態条項」などだ。

 このうち、衆院の解散には現在、2つの道筋がある。まず、憲法7条での内閣の助言と承認による天皇の国事行為として行われる解散。実態としては首相の判断で決められる。そして、69条では内閣不信任決議案が可決された場合に10日以内の衆院解散か総辞職を義務づけている。現行憲法下での解散は23回あり、19回が7条解散となっている。民進党はこれを「解散権が首相の恣意で使われる」と批判するが、そこには別の事情もうかがえる。

 「今年末にも解散の可能性がある」。首相官邸に近いある中堅自民党議員は声を潜めてこう明かす。内閣支持率の動向を見て改憲勢力が選挙後も衆参両院の3分の2を維持できそうなら、首相は衆院解散に打って出るかもしれないというのである。同議員は「来年にずれる可能性もある」としながら、今は解散風の方向を見定めようとしているとも話す。

 この解散権を持つ首相側は、当然ながら野党に対して強い立場にある。内閣への支持率が高い時や野党の選挙準備が整わない時期に解散を打てるからだ。民進党など野党にすれば、それが嫌だから「首相の専権」に歯止めをかけたくなるという面もある。

 実際、同党は前身の民主党時代の2005年に「憲法提言」をまとめているものの、そこに盛り込んだのは非常時に限定した首相の解散権の制限だけ。09年から3年間の政権担当時には、これを変えてはいない。「政権を持つと解散権を手放したくなるはずがない」。自民党の菅原一秀・元財務副大臣はそう皮肉る。つまり、自民党側がこれを憲法改正案に盛り込む可能性は低いということだろう。

首相発言に驚いた「憲法族」

 「参院のあり方」にも同様の“におい”がする。日本では参院の権限が強く、予算と条約承認、首相指名を除いて、同院が否決すると衆院で3分の2以上の多数による再可決が必要になる。07年の参院選の敗北で、第1次安倍政権は退陣に追い込まれた。衆院では与党が多数でも、参院では少数になる「ねじれ」が原因となった。

 その後の歴代政権もねじれに苦しみ、政治の停滞を招いた。それを思い起こせば「参院の権限を制限し、衆院優位の体制を作ることや、参院を有識者だけの組織にして、議決権は少なくするなど衆院とは性格を変えるといった改革も必要になる」(PHP総研の永久寿夫代表)。

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